清藤 豊YUTAKA SEITOU

やはり作品が街や地域に参加するきっかけとなるのは、自分にとって重要なことです。

鈴木:まず建築を学ぼうと思ったきっかけを教えてください。

清藤:建築を学ぼうと思ったのは、家族の影響が一番大きかったです。家族が仕事としてアートやデザインに携わってきたことから、自分も同じような仕事をしてみたいと思いました。更に私は、社会性を持ってものづくりをしたいとも思ったので、「建築」の分野を選びました。

鈴木:社会の中に位置付けられた仕事として、クリエイティブなことをしたい、ということですか?

清藤:そうです。また私が学んでいた建築学科(武蔵野大学環境学部)では、建築の知識や技術を、空間アートやインテリアなど他分野へ広げる「環境プロジェクト」の取り組みが行われていました。そこで私は環境アートの制作に携わったことから、アートに興味を持ち、空デに進学するきっかけともなりました。

鈴木:「環境アート」というものは清藤君にとってどういうもので、どういったところに惹かれたのでしょうか?

清藤:「環境アート」は建築よりも「境界」が曖昧なものだと思います。そのため、多くの人が作品を共有でき、設置した「場所」に対して深く入りこめることに魅力を感じました。それを一番感じたのは「EP3」(上記の環境プロジェクト内の「EP3」というチームに所属。環境アートやメディアアートをメインに活動する)としてミラノサローネへ出展した時で、国籍や文化をも超える力があることを実感しました。

鈴木:「EP3」はどのくらいの規模のチームで、清藤君はどのような役割を担っていましたか?

清藤:30人程度でした。2年次は制作補助として動いていましたが、3年次にはリーダとして、制作全体の進行や展示計画を主に行っていました。

清藤:こうした経験から、卒業制作では靴を題材にした作品を制作しました。これは個人が街や都市へ参加していくきっかけとなる「居場所」を、靴の空間性をヒントに制作したものです。

鈴木:作品の中にはハイヒールの形もありますが、清藤君はヒールを履きませんよね? この作品は誰かのためのものですか? それとも自分にとっての「居場所」でしょうか?

清藤:そうですね。この「居場所」は自身を主体にしつつも、ほかの誰かがアプローチすることで、どういった意味を持ち始めるかも作品の一部だと思います。

鈴木:大学院に入ってから自身の居場所というテーマに強く関心を持っているようですが、第三者や自分以外を意識した以前の活動から方向性が変わってきたように思います。

上條:そうした制作を経て、ムサビの空デに進学し、鈴木ゼミに所属したのは何故でしょうか?

清藤:鈴木ゼミを選んだのは、ゼミの活動や鈴木さんの活動が、個人の意識や発見のように見えながら、他人や世界に対して訴えかけるものになっていることに魅力を感じたためです。

今日はこの他にもゼミでの活動記録を持ってきました。これは、ゼミ室やその周辺に白線を引いて、その上を遊んでみるという作品です。

鈴木:映像をもう少し編集して、何人かが当たり前のようにそこを通りながら日常を過ごしているような映像を撮らないと単なるデモに見えてしまいますね。

上條:白線というものがただのルートではなくて、何かのボーダーになっていたり、飛び越えている人がいたり……、予想外な出来事が起こりうる空間ができたことを示せるといいですね。何人かで遊んでもらって、通り方のバリエーションなどを見せられると、面白く見えると思います。

清藤:これは最初、課題として作ったのですが、講評後も制作を続けています。白線を引くだけでなく、別のものを白線に見立てることや、活動を学外へ広げることも考えています。やはり作品が街や地域に参加するきっかけとなるのは、自分にとって重要なことです。

上條:それに加えて、着脱可能な素材で白線を足してみることや、他人の気配を感じさせる試みがあると更に良さそうです。実際に街で機能することも今後考えられるとよいと思います。

鈴木:卒業制作や他の活動も含めて、実際にものを作っていくことに対してはどう思いますか? 大学院での活動は、屋内もしくはCGなど、画面の中の表現で収まってしまっているようにも見えます。

清藤:作品を具現化できていない、ということはこれまでの反省点であると思っています。チームでは実際の空間作品として外部と関わってきましたが、反面個人としては図面や模型、計画だけで作品を一度完成させてしまっていました。それは、計画や発想の段階で立ち止まってしました。具現化することを前提とした作品を考えられていなかったのが問題だと思います。

鈴木:今後はどんなことに取り組んでいきたいと思っていますか?

清藤:これまでは、計画という部分を重要視してしまっていました。なので、発想を実際のものとして作り出し、プログラムやハードを同時に深めていく必要があると思っています。新学期には、学部生時代よりも更に完成された作品を発表できるように活動していきたいです。