玉野有花YUKA TAMANO
私の言った”空間”という言葉は、立体や三次元、四次元、3Dというよりも、私たちを取り巻いている空気感、というニュアンスに近いですね。

鈴木:どうして武蔵美に入って、鈴木ゼミに?
玉野:もともと、書道や字に関することをやりたい、という気持ちと、“空間”を考えたことがしたい、という漠然とした気持ちがありました。
鈴木:“空間”という言葉について、言葉にできなさそうなことを“空間”って言っていると思うけれど、玉野さんにとっての“空間”ってどんなときに感じるもの?
玉野:例えば、文字や文章が書いてある1枚の紙があって、その紙自体は平面です。“空間”というと、立体を想像するけれど、その紙が1枚あることによって、自分の周りにいつもと違う空気ができたり感じたりしたら、その1枚の紙は“空間”を作っていると思います。紙に書いてある文字を、平面の対義語としての立体、3Dにしたとして“空間”であるかというと、そうではないと思います…。たとえ平面であっても、“空間”にはなり得る、と考えています。私の言った“空間”という言葉は、立体や三次元、四次元、3Dというよりも、私たちを取り巻いている空気感、というニュアンスに近いですね。
鈴木:趣味とか特技とか…、これは?(持参した作品を指して)
玉野:これは、私の撮った鳥の写真図鑑「播磨国野鳥情景図録」で、鳥の名前をかなと隷書で書いた作品です。祖父と父が書家で、私も小さい頃から書道をやっていて、書や字に関することに興味があります。作品でも、書や文字について考えたものを作っていきたいと考えています。趣味は写真で…。特に、鳥の写真を撮るのがすごく好きで、よく実家の近くの川に、鳥を探しに行きますね。
上條:話の土台として、こういう作品があるのはいいね。話しやすい。
鈴木:鳥の名前だけじゃなくて、鳥というものとどう向き合うかっていうことを模索し始めると、作品になり得るというか…、それがプロか、プロじゃないかっていうと、それはまた別問題だけど。プロっていうのは、同じように“何か”の表現を追求している人のなかで、飛び抜けた“何か”が評価されて、それが「欲しい!」っていう人がいるとか、歴史に位置付けたくなる人が出てくるとか。そういうところがプロかどうか、ってことなのかなって思う。プロかどうかは置いておいても、追求の仕方を考えたらいいのかな。
上條:鳥のなかでも、鳥のどこがいいのか、何がいいと思っているのか。そこからセレクトして、もしかしたら鳥が出てくる漢詩を表現するとか、鳥を感じさせる文字、みたいなものに行き着くかもしれない。
玉野:確かに、文字や書を、立体化したり空間を感じさせたりするために…どう表現しよう、という手法的なことを考えていましたが、もっと根本的なことから考えてみてもいいかも、と思います。
上條:やっぱり、立体とか空間を考えることもいいよね。ゼミ展『CAN P』で玉野さんが制作した《じてん ji-tent》とかも、文字に包まれている感じとか、寝そべって上を見た感じとかは、面白かった。普段から私たちは文字や言葉に囲まれている、自分たちが言葉とどう接しているか、ということから考えていて。
玉野:この作品は、兵庫県の県展で賞をいただいたものです。「ザ・書道」って感じのものですね。ちゃんとした書道もできる、やっているという事実や、目に見える証明が欲しくて。
上條:うん、うん。そういうのが好きな人がパッとやった訳ではないよ、っていうのがね。
鈴木:絵画でいう模写や書道でいう臨書は、作者が何を考えたか、その人になる、体得するということだと思う。話を聞いていて、「自然に学ぶ」というと、深くて浅く感じると思うけれど、人を通して学ぶことと、鳥とか、自然から学ぶこと、両方する人なのかなって感じがする。
鈴木:誰でもいい訳ではなくて、ベースになるのは、その人の必然性みたいなものがきっとあると思う。玉野さんの場合は、鳥が好きで、自然に書道を受け継いでいる家庭に育って…。美大に来たから、ちょっとそこで捻りを一発入れてあげた方がいいんじゃないかな。この写真を自分で撮ったんだったら(「播磨国野鳥情景図録」の写真)、もうすでに鳥のことを知識ではなくて、鳥が何秒くらいここにいるかとか、体で知っている訳だよね。実はそういうことはすごく重要。鳥って、「飛んでいるもの」くらいしかみんなは知らない。撮れない感覚とか知らないから…。
上條:「あっ、飛んでる…もう撮れない」ってね。
鈴木:鳥って意外と飛んでいないんだよね。ずーっとそこにいるんだなって知って、びっくりした。猫と犬って、すごくて哲学的な話が展開できる。鳥って、また面白いよね。鳥は地上にいるものとは違うから…素材としてかなり魅力的。今、書道という方法をすでに持っている。そこを生かして、考えていくのはいいと思うな。
上條:でも文字って、意味性が強いから、その意味にとらわれ過ぎないで、いったん文字から離れて考えることも重要だと思う。
玉野:文字が“強い”というのは、ゼミ展での作品「じてん ji-tent」でとても感じました。黒の文字で制作したときは強すぎて、威圧感があって。ミラーのような銀色に変えて、やっと風景に溶け込んでくれたって感じました。文字、書、鳥など自分が好きで興味のある事柄について、もっと考えを深いところに馳せて、(でも縛られ過ぎずに!)制作に繋げていこうと思います。