飯嶋里佳RIKA IIJIMA

自分自身が反映されている気がしたんです。まるでレシートが自分の体そのもののように感じてきて。ならばレシートを「標本」として見立ててしまおうと。

飯嶋里佳

鈴木:鈴木ゼミに入った理由を聞かせてください。

飯嶋:3年次は片山ゼミでクライアントワークを中心とするブランディングとインテリアデザインを学んでいましたが、クライアントワークに取り組む以前に、まずは自分自身のことをもっと知りたいと思い、転ゼミを決めました。

上條:もともと美大に進学しようと思ったきっかけは?

飯嶋:高校の時は、ずっと勉強勉強で…。一般大に入る予定でいたんですけれど。高校の時に美術を選択したのですが、先生が美術予備校の先生でもあったということと、クラスメイトが藝大を目指すと早いうちから言っていて、美大という手があることを知りました。

上條:では遡ると、そもそもムサビに入ったのは?なぜ空デに入ったのですか?

飯嶋:2012年の卒業制作展を見て決めました。いろいろな学科を観たのですが、一番空デがビビッと来て。直感なんですけれど。

上條:空デの中で、舞台、ファッションなど、何か気になるコースはありましたか?

飯嶋:それがなくて…。入るまでどのようなコースがあるのを知らなくて。ですが、その頃からミュージックビデオをよく見ていたのですが、「空間」だったら何でもできるのかなと。

上條:ミュージックビデオで好きな作品やクリエーターはいますか?

飯嶋:田中祐介さんという、Perfumeやサカナクションの作品を作っている方です。あとは紀里谷和明さん、松居大悟さんも好きです。

上條:ファンタジー的な世界観が好きなのでしょうか?

飯嶋:そうですね。けっこう、テレビや舞台の方が近いのかなって思っていて。結構そこは曖昧で。演劇が好きかと言われるとそうでもなかったり。

上條:自分から見てそう思ったの?それとも接点がないとか?

飯嶋:音楽と映像で異次元に行ける世界が気になるみたいで、世界を切り取っているのがいいのかなと。舞台だと、自分以外のお客さんも含めて舞台の裏に何かあることが見えるのですが、映像作品ではそれが全く見えないように加工しているところに魅力を感じます。現実を全く見せないように作られているところに引かれているのかなと思ったりします。ミュージックビデオの中にも表現された現実や日常はあるんですけれど、日常らしく見えるように加工しているところが面白いというか。

上條:映画とミュージックビデオだとどこが違うと思いますか?

飯嶋:映画はストーリーを伝えるために映像があると思います。ミュージックビデオは音楽のために映像があるんですけれど、曲に強くイメージをつけてしまう分、クリエーターの責任が重いというか。でも、曲にもう一つのイメージが付けられるのはすごいなと。

上條:今度、「ゼミ生による授業」でミュージックビデオについて授業をしてください。何かやってみたいことはありますか?

飯嶋:例えば、音を抜いて観るのをやってみたいです。音を抜くと雑誌を見ているみたいな感覚になるというか。

鈴木:やはり映像だけではないですね。MVを大きな空間で大音量で流すのではなく、空間体験として何かができるといいのかなと思います。その音楽そのものを感じられる空間…。

飯嶋:それはなんというか、卒制のテーマになるのかなと考えていて。没入感というか異次元というか。体感したことない空間を作りたくて。それが何の表現なのかはわからないですが、現実を忘れられるようなものに魅力を感じます。

上條:ストーリーもないし、明解な意味もなかったりするから、それってなんというか…

飯嶋:うーん、感覚なんでしょうね。感じることがメインというか。

鈴木:日常にありながら、少し日常から浮いているみたいな。

飯嶋:日常からスタートしていないものってなんでしょう……。すごく突飛なものをつくっていても、人には受け入れてもらえないというか。けど日常がベースになっているとそれがどういう形であろうと共感できる気がしていて。

上條:音を流さないで映像だけっていうのも面白いかもしれないですね。好みに寄らないというか。あとは、ミュージックビデオの好みをもう少し広げられるといいですね。

鈴木:ミュージックビデオという表現がまだ生まれていないときにそれを生み出した人がいたように、飯嶋さんならではの新しい映像のあり方を見つけてほしいです。

飯嶋:そうですね。映像制作しかり、何かの制作を通して自分を知ることと、また制作から世の中に対する疑問や、変化が生まれるといいなと考えています。そもそもアートは世間を斜めから見るという感じがあって。そこから切り込むことでまっすぐの世の中しか見ていない人に訴えるものを作りたいです。

鈴木:具体的にはどんなことを考えていますか?

飯嶋:ゼミ展に向けて「レシート」をモチーフにした制作をしています。レシートそのものに興味があるのではなく、その中の情報や商品を買ったときの気持ちに興味がありまして。レシートはそのとき自分がどうしていたとか、何を感じていて何を買ったとかが記録されていて思い出がよみがえるというか。自分自身が反映されている気がしたんです。まるでレシートが自分の体そのもののように感じてきて。ならばレシートを「標本」として見立ててしまおうと。
自分を知るために鈴木ゼミに入ったということもあり、自分から生まれる身近な情報のレシートと、今一番興味のある映像制作とをからめていきたいと思っています。

飯嶋里佳