大石真由MAYU OOISHI
一人暮らしを始めてからすごくコンセントを身近に感じて、何か一緒に生活している感じというか。
上條:なぜ美大に入ったのか教えてください。
大石:美大に入りたいと思ったのが中学生の頃で、1年生の時にソフトテニス部に入っていたのですが部活に割く時間が思ったより多いなと感じまして、もう少し絵を描いたりする時間が欲しいなと思い途中で美術部に転部したんですね。その辺りからなんとなく将来は美大に行きたいなと思い始めました。
上條:(自分史を見ながら)小学校時代の「漫画クラブ」に入っていたことも何か影響を与えていそうですね。これは何年生の時?
大石:小学5年生の時ですね。小学5、6年次に全員何かしらのクラブに入るという決まりがありまして、私は漫画を読んだり絵を描くことが好きだったので「漫画クラブ」入りました。家から好きな漫画を持ってきて、その漫画の絵を見ながら紙に描いたり、絵を描かない人は読んだりといった活動をしていたクラブでした。当時私は『鋼の錬金術師』という漫画が好きで、その漫画を持ってきていつも描いていました。
上條:漫画はずっと好きだったんですね。
大石:そうですね。従兄弟が漫画をたくさん持っていて、小学校の近くに従兄弟の家があったのでよく帰り道に寄って読んでいました。
鈴木:自分が好きな漫画を描くことと、高校の美術部や県の作品展に出すこととどういう違いがありましたか?
大石:個人では漫画や二次創作の絵を当時は描いていたのですが、県展に出す絵はまた違い、風景のような絵を描いていました。
上條:美術というものに対して意識が高くなったのは美術部で、さまざまな絵を知ったことからですか?
大石:そうですね。受験を意識したくらいからグラフィックデザイナーの作品を見始めました。
上條:亀倉雄策さんや福田繁雄さんの名前がありますが、どちらかというとデザインに興味があったのでしょうか?
大石:デザインでしたね。その方々のデザインが載った本が高校の図書館にあったので、よく見ていました。
鈴木:自分の好きなものと学校で習う美術を冷静に割り切って分けてきたという感じですね。
上條:なぜグラフィックではなく、空デに入ったのですか?
大石:個々の持っている想像の世界を空間というメディアを使って一番人に伝えることができる学科だなと思い、私も自分の中のそういった部分をもっと深めていったり、育てていきたいと思ったからです。グラフィックでもそういうことは技術とともに学べるかもしれませんが、その前に一歩、何か違った形で自分の世界観を作品にしたいと思いました。
上條:専門的な内容よりも広く考えていこうという感じだったんですね。実際に入ってどうでしたか?
大石:自分の自由な時間がすごく取れて、どんどん自分から動かないと刺激がなくなってしまうと思ったので、以前と比べると物事に対して積極的になれたと思います。

鈴木:学校のことだけでなく、いろいろ活動していますね。例えば自主制作で販売しているzineの「コンセントさん」。大石さんにとってコンセントってどういう存在なのでしょうか。
大石:一人暮らしを始めてからすごくコンセントを身近に感じて、何か一緒に生活している感じというか。実家に住んでいた時は思わなかったです。
鈴木:それは面白い変化ですね。物に「さん」を付けるようなことは子供時代には当たり前にやっていたかもしれないですね。大学に入って高校生のときとは違って自由な時間が増えたと言っていましたが、大石さんにとって大学生というのはどんな時間なのでしょうか?
大石:自分自身に一番向き合う時間かなと思います。今まで周りの現象などに合わせて行動することが多かったのですが、大学生になり自由な時間が増えることで、改めて自分は何がしたいのかをじっくり考えることができたのではと思います。
鈴木:大石さんの作品で、ここが他のクリエイターの作品とは違う、自分らしいと思う点はどこだと思いますか?
大石:色味だったり、着眼点が私らしいと言われることが多いです。
上條:このコンセントさんの世界が空間になったらすごく面白いんじゃないかなと思う。横山裕一さんという作家が川崎市民ミュージアムで個展『横山裕一 ネオ漫画の全記録:「わたしは時間を描いている 」』(2010年)を開催していました。彼は漫画を描くことを「時間を描いている」と表現していて、展示では2次元と3次元の間、2次元にとどまらないような空間を作っていたのが印象的でした。ああいうのを目指してみてもいいかもしれないですね。

鈴木:ディズニーやジブリが広く浸透しているのは、映像の世界を空間化して人々の体験に変えたこともあると思います。平面と言われている表現に時間軸を与え、空間へとどのように展開したか、先人の開拓したものを自分なりの目で分析することがとても大事なのではないかと思います。
上條:すごく面白い挑戦になると思います。三次元にするとまた違う見方をすることができるんじゃないかな。
大石:そうですね。まだまだ自己の世界観を空間に起こすことに手が伸ばせていない感覚があるので、平面の世界から3次元の世界に飛び出したような、空間で自分の世界観を表現できるような作品にチャレンジしていきたいと思います。