丸山結衣×田中望
問題というか劣等感がずっとあって。自分には秀でているものが何もないってずっと思ってるんだ。「得意なことは?」って聞かれた時に「俺よりも上の人はいるし」って思う癖がすごくあって(田中) 自分の中で適した表現方法を知ることが課題だった。物を作るだけでなく、見方を学んだり、言葉を扱ったりする授業もある鈴木さんのゼミの中で、自分の表現方法を見つけられると思ったから選んだところもあるかな。(丸山)
田中:美大に進学しようと思ったきっかけは?
丸山:高校時代所属していた吹奏楽部で毎年定期演奏会があって、曲の雰囲気に合う照明を選んだり、曲間に芝居を入れてみたり、衣装も自分たちで考えていたんだ。そんなふうに演出を自分たちで考える部活だったのがきっかけかも。そこで舞台にもっと関わってみたいなと思って、空間演出のコースがあるムサビを選んだ感じ。田中くんは?
田中:芝居を入れたりなんだか演劇部の活動も同時に行ってるみたいだね。自分は、小学校の時からアニメを見るのが好きで、アニメ内で出てきた小物みたいなものを作ったりすることが好きだったから、それをやってみたいなと思って 。空デなら幅広く色々できそうだなと思ったのがきっかけかな。
丸山:舞台の小道具みたいな感じだね。
田中:そうだね。舞台の小道具とかやれたら面白いかなと思ってたんだ。
丸山:セノグラフィ(舞台芸術)の授業はとった?
田中:とったよ。3年生の前期はセノグラフィだった。丸山さんは?
丸山:私は1、2年生の頃から舞台衣装を専門にしている教授の手伝いだったり、サークルで演劇の公演を何回か経験していたの。3年生の授業では違う分野を試してみようと思って、環境計画の授業を選択した。田中くんがゼミに環境計画を選んだのはどうして?
田中:最初はセノグラフィの小竹信節教授のゼミに入りたくて、でも定年の年だったからゼミ生を取らなくなっちゃって。それで悩んでたんだけど、個人的に鈴木さんの作品から自分の中の小さな疑問やある瞬間に気付いたことを大切にしている感じと、ユーモアがある部分がいいなと思ってたんだ。そういった考え方を取り入れられたら、自分の物の捉え方を変えて、表現の幅も広がるし、自分を見直せる思ったから鈴木さんのゼミを選んだ感じかな。
丸山:私は、自分の中で適した表現方法を知ることが課題だった。物を作るだけでなく、見方を学んだり、言葉を扱ったりする授業もある鈴木さんのゼミの中で、自分の表現方法を見つけられると思ったから選んだところもあるかな。田中くんは現状の自分に何か問題を感じてるの?
田中:問題というか劣等感がずっとあって。自分には秀でているものが何もないってずっと思ってるんだ。「得意なことは?」って聞かれた時に「俺よりも上の人はいるし」って思う癖がすごくあって、でも鈴木さんの作品は、自分の中の軸が一番大事な印象を受けてたんだ。疑問を純粋に追求していくことで秀でられるみたいな。でも軸になる、自分の好きなこととか、一番大事なことはまだ全然見つかってないんだけどね。
丸山:私も長く続けてるものがないので、これ!って断言できるものはないかも。
上條:自信の付け方の話になるけれど、上には上がいるけどでもこれなら私は一番だって思うことを少しずつ増やしていったりすると心が楽になると思う。人と話していく作業を自分の中にするといいのかな。会話の中でそれが自慢できることじゃないかもしれないけれども自分特有なことなのかわかってくる。誰かが決めた基準ばっかりを見ていると優劣の話とかになっちゃうんだけど。その基準を自分で作っていくっていうのが鈴木くんのやっていることなのかもしれないし。
授業は被ってたりしないの?
田中、丸山:一年生の時にクラスが一緒でしたね。
丸山:課題の中で印象に残ってるのはある?
田中:1年生のファッションの課題かな。作品としては人間がテーマだったからその頃の自分の内面とか感情を色に見立てて、絵具を散らせた紙を小さな立方体にして、それを瓶に詰めて縄で首吊りみたいにした作品なんだ。当時は自覚していなかったけど、今考えればずっと自分の内面について無頓着だったことを無意識的に表現したのかなって思ってるんだ。丸山さんは?
丸山:私は「ethnic is current」という、民族をテーマにしていたファッションの授業だな。壊れた革靴やアクセサリーに金継ぎを施してたの。何かを作るというより直すことに重きを置いていて、既存のもに手を加えることの方が向いているかもしれないと気付けた。自分の得意不得意がわかった授業だったと思う。
田中:好きな物を見つけるためにも技術を身につけるのはいいことなのかもね。
鈴木:発想と技術って切り離せなくて、作れないものは考えないようになっているから。具現化するために自分の最低限必要な技術とか道具の使い方とか迷わずどんどん取りに行かないといけないのかなと思ってたりするよ。
丸山:最近はネットで調べると、たくさん方法も出てくるのはありがたくもありますよね。

鈴木:何か道具を1つ手に入れる経験と同じように、同時に発想の仕方も変化していくので。2人と同じ歳の頃、舞台の小道具制作の現場に出入りしていたのですが、舞台では「見え方」のレベルでリアリティを生み出しているから、「本物」は作らないってことを学びました。その視点が作品制作のベースとして常に生きています。大袈裟にいうと生き方にまで適応できるわけです。どう「嘘」をつくかっていう、フィクションやファンタジーのリアリティに発展していくんだけど。
田中:今の嘘の話から、実物を作らなきゃいけないって思ってしまっていて。でも、結局紛い物みたいな。本物でもないし、かといって全く別のものっていうわけでもなくて、どっちつかずみたいな…。
鈴木:それをもっと広く捉えないと落ち込む一方だと思います。 舞台の世界はプロダクト的な作り方とは全く違って、その時々に応じて現実感がコントロールできる。そういうことを知って世界が広がるような、励まされるようなことでもあるよね。
丸山:舞台では「必ずこうしないと!」っていう決まりはあまりないように思います。演出が求めているイメージに近づけて、いかに「らしく」見せることができるかというか…。
上條:でも、もちろんそこにもプロの仕事っていうのは存在していて。求められる物を提案しなくちゃいけないから難しいところではあるけれど。
鈴木:田中くんと同じかわかりませんが、勉学が得意ではない自分がどうやったらやっていけるのかなっていうのが、学生時代の自分のスタートラインとしてあって、自分は勘違いや見間違えたりするのが得意だなと気がついた瞬間がありました。その後、見間違えみたいなことが他者の理解には必要だと思える時代になってきたと思っていて。
上條:自分で気付くっていうか、人から言われて気付くことももちろんだけれどやっぱり、評価の基準って自分が持つものなのでその気持ちをどんどんリリースしていくというか。それができていくといいと思う。
鈴木:このインタビューで考え方としてはスイッチを入れて、あとは楽しめる鍛え方を見つけるしかないと思う。田中くんは何してる時が楽しい?踊ってる時?
田中:そうですね。動画を見ながら動きの研究をするのが楽しいです。自分が踊ってる時と、動画のダンサーが踊っている時の違いを、うまく自分の知識と照らし合わせて突き詰めていく、こうかもしれないって試していくのが特に。
丸山:たとえば?
田中:今やってるダンスは社交ダンスの派生なので、他の人と組むためのホールドがあるんですけど、 自分のパートナーに「他の人は骨を感じるけど、自分がやってるのは肉を感じる、そこの重さが全然違う」って言われてどういうこと?と思ったんですけど、多分自分の体の中の繋がりをを正しく意識できていないってことかなと思ったんです。だから、言われた感覚を試してみようと思って言葉の中にあった骨をヒントに、腕と肩の骨に注目して考えみて、肩甲骨と上腕骨がどうくっついてるかを考えた時に球体関節、肩を意識的に動かしてみたら今までの自分と変わったなって思う部分があって。一見、同じようで全く違うことができるようになったみたいな経験がすごく楽しいです。あとは、先輩に「胸部は左45度を向くけど、おへそは正面を向く」って言われて、最初まったく意味がわからなかったんですけど、海外選手の動画をよく見るとみんな忠実にやっていたんです。それがあるから綺麗なんだなぁとか。身体の細部まで意識して見ていくと発見がたくさんあって、面白いなぁと思います。
上條:よく喋ったね(笑)。ダンスに関することはものすごいディテールの話もできるし、面白い。
鈴木:我々ダンスをしていないから、自然に生かせないけど…。
ダンスをダンスだけで終わらせずに、もえてもらえたら嬉しいです。例えば安易な考えだけど健康みたいなことだったり自分の体の見方だったりするとすごい興味が湧きます。

上條:ちょっと一本線を引き換えるだけで全然違う面白いことがそこにはあると思う。デフォルメだったり、何か関与させて行ったら面白いのかもしれないとか。やっぱり話し方がものすごい流暢だし、よく知ってるし、人にも話せるし、自信もあるから。
丸山:生き生きしてた。解説付きで動画見てみたいなとか思いました。ダンスと日常っていうのが田中くんにとっては地続きだけれども、私たちはもうちょっと離れたところにいる感じがする。初心者に向けて、もう少し何か段階だったり、言葉が必要なのかもと思ったりしました。
上條:丸山さんは春休みに何しようかなとかありますか?
丸山:長く着れる服を作ってみようとか、3年に制作したZINEのブラッシュアップをしようと思っています。
鈴木:ZINEはすごく演劇をやっている人の発想だなと思っていて。すごい面白いと思ったからZINEを服とかに絡めていくはますます楽しみです。
丸山:3年のときは、場所のことばかり考えていたので、服に絡めていく発想はありませんでした。読み手に何か体験させたり、物語の中に引き込む方法を考えたいと思っています。今日はありがとうございました。