中村真緒MAO NAKAMURA
自分がどう思って書いているかだけではジャッジできないところが面白いと思います。

鈴木:美大に進んだきっかけを教えてください。
中村:絵を描くことが好きだったからです。それと同じくらい本当に勉強ができなかったというのもあります。中学生のころには美術系の進路を考えはじめました。
鈴木:実際にムサビの空デに入ってはどうでしたか。
中村:2014年度にムサビに入学しましたが、すぐに休学していて……。浪人中に「受かるデザイン」みたいなものがあると気が付いてから、それがすごく嫌になって。「デザインってなんなんだろう」と思っていました。いろいろな人に相談して「じゃあやってみたかったことをやろう」と思って油絵科に転向を決めました。
上條:空デの専攻のなかで興味があることはありましたか?
中村:バレエやミュージカルに興味があったので、セノグラフィコースに進もうかと考えていました。浪人して、「物事の見方・とらえ方を他人と比べない」という視野を得てから、油絵を続けたい意欲が増していって、3年次編入で油絵科に転科しようと思いました。ですが課題で完成・講評までいったとき、「デザインは他人によって学ぶことができるものだ」と再認識し、空デに残る意思を固めました。課題の縛りの中での作品の多様性を見たからかもしれません。
上條:デザインも一見制約があるように見えて、その先に自由があるのかもしれませんね。
鈴木:今、デザインは社会と切り離せないものになっていて、デザインすることで、他者との関わりや現実の変化に喜びを感じるものだから……他人や他者から学ぶ糸口が見つかったことは飛躍だと思います。油絵学科に行くのとは違う他者との対話、中村さんはその二つのゆらぎを経てここにいるんですね。
鈴木:今日、他には何を持ってきましたか。
中村:道で見つけたたばこの空き箱の写真なんですけど……。

上條:なぜ、たばこの写真を撮り続けているんですか?
中村:なぜ捨てるかわからなくて。
鈴木:どのくらいの期間(撮っている)?
中村:まだ1年経ってないです。
上條:撮り続けてみて、何か自分に課したルールはありますか?
中村:触らない。拾わない。アイコスは撮らない。
上條:(笑)
中村:たばこと判別できるものは撮ります。
鈴木:だんだんこの現象自体消えていくんでしょう。 社会から嫌われて、ゴミとして排除されていくものを「どう見るか」ということが隠蔽されている。こういう一見無駄な行為をしないと感じ方も忘れてしまい、価値も変換できない。
上條:単なる捨てられたたばこの空き箱コレクションではなくて、それを見た時に湧き上がった心の機微を綴ったエッセイとか、もう少し気持ちを知りたいですね。この写真で観客に想像してくださいっていうのはちょっと乱暴な気がします。
中村:空き箱をみんな無視して、踏んでいく。吸う人間にとっては「もったいなさ」みたいなものも感じてしまい、不思議です。捨てたことがないので、私もまだ無関係のゴミだと認識している。同情の部分もあると思います。一回捨ててみたら考えが変わるかもしれません。
上條:中村さんは言葉に敏感な感覚を持っているから、それをエッセイなどの文章にするのもよいと思います。
中村:以前最果タヒの詩を読んで、思っていた以上に詩らしさが弱いと感じました。詩と散文の境目ってなんなんだろうと思います。穂村弘の「短歌ください」も、読んでから、境目について考えていました。自分がどう思って書いているかだけではジャッジできないところが面白いと思います。
上條:例えば文章を意図的にいじって遊んでみる。詩なのか小説なのかはどうでもよくなって新しい領域にたどり着くかもしれません。
鈴木:自分は文章を何度も読まないと自分の中に入らないタイプだから、デティールにクスッとくるものがあって、ある種完成されていると思います。
中村:今、書いて完結してしまっているので、もっと外に出るようなアプローチがしたいです。
上條:どういう人、対象に興味があるのですか?
中村:絵を描くとなると心象風景だったり、実在しない人が多いですが、エッセイは実在したことだけだったりとアウトプットの仕方で変わってきます。
上條:エッセイは本当にあったことしか書いちゃいけないのでしょうか。フィクションというか書き手の妄想が加わったり、記憶もあやふやなものだったりするので、読み手としては面白ければいいかなと思う部分もあって。
中村:フィクションを交えるという発想はなかったです。
上條:次のステップとして、現在の文章に少し揺さぶりをかけてみては? 例えば嘘日記を書いてしまうような。あくまで実験的なこととしてトライしてみたら、普段書く文章も変わってくるんじゃないかと。
鈴木:読者としてはだまされてもいいというか。ある種、写実的で、描いた人の視点のままに生きていきたいような気持ちになる。中村さんのものの見方が文章にスイッチできている。
上條:あと、もう少し長い文章を読みたいですね。文章は個人のタンブラーには載せないのですか?

中村:印刷して読むというのが素敵だなと思っています。これ(制作したZINE)を欲しいっていう人がいて。原本が1冊しかなかったので「データでもいい」と言われたんです。「でも印刷すれば紙になる」と思いました。紙の種類、ページのレイアウト、フォントなどすべてを含めてひとつの作品だと考えていたので、文章も紙で読むために書きました。なのでそれをそのままウェブに載せるのは、少し怖く感じます。デジタルネイティブ世代ですが紙媒体とは大切に向き合いたいと考えています。正直、ローンチするという点ではネットの方が楽です。短歌はインスタに載せていますが、どこかに引っかかって広まっていくとしたら、コンテンツと合致する層が決まってくる。ビジネスではないけれど、どの層をターゲットにするかによって発表の方法は変わってくると思います。
上條:では、これから4年生になってどういうことをやりたいですか?
中村:スケールが小さいもの、短歌やエッセイ、刺繍、イラスト、アニメーション……を総括したときに結局自分がどう感じているのか、よくわかっていなくて。もっと自分の考えていることを知りたいです。いずれにせよ将来は仕事と創作とを切り替えられたらなと思います。
鈴木:仕事中に作品について考えるとすごく良さそうですね。
中村:作ることについてずっと考えていると精神的に崩しやすくて。
上條:あえてその波に乗るというのは?
中村:それよりフラットに生きたいです……。「デザインとファインを超えて考えていく」ということに今後じっくり向き合いたいです。
