井上あやめ×小川綾花
目の前のことが全部で、すごく自然な感じ。そういう心持ちでいたいです。
上條:小さい頃、どういう子でしたか?
小川:一人で遊ぶのが好きでした。想像力がたくましかったと思います。それから、ものを集めるのが好きで。
井上:(MY DESIGN HISTORYの)電車の回数券の袋。これはなぜ集めていたんですか?
小川:色が好きだった。今も、いいなと思ういらないものは取っておきます。
上條:絵を描いたり、ものつくるとかはその時からしていましたか。
小川:とくに、絵を描くのは小さいときから。いつから美大に行くことを考えていたかは覚えていないですが、10才の時の小学校の文集に、10年後は絵の学校に行ってイラストレーターになりたいと書いてあって。そんなことを思っていた記憶はなかったので驚きました。
井上:方向性は、あっていますね。空デを選んだのはなぜですか?
小川:もともと舞台美術をやりたかったからです。でもセノグラフィーの課題をいくつかやる中で、自分のやりたいことと違うと思いました。舞台美術は、見やすさや観客へのわかりやすさが大切なことがほとんどで、そこに徹することが私には難しい。
上條:セノグラフィーなど色々な課題をやってみて、鈴木ゼミに決めたのはどうしてですか?消去法かもしれないけれど。
小川:卒業したあと、例えばスーパーマーケットの店員になるとしても、働くのは自分ですよね。水の中の重りみたいなものが自分の中にあれば、どうなっても何をしていても平気だと思って。そういうものがまだないので、とっかかりを見つけるのに鈴木ゼミは良さそうでした。

井上:これからしたいことはありますか?
小川:これからって、すごく広いです。何になりたいとかはまだないです。
上條:何かになるわけじゃないからね。自分の中でこういうことは大切にしたいなど、重りの一つになりそうなものはありますか?すごく小さいことでも。
小川:さいきん犬を飼い始めて思ったことは、例えば犬には「食べる、寝る、あそぶ」しかなくて、時間とか宇宙のことはきっと考えていない。目の前のことが全部で、すごく自然な感じ。そういう心持ちでいたいです。これは考え方だけの話なのですが。
上條:卒業したあとはどうしますか?
小川:こういうことをずっとやっていければいいと思うことが最近少しあります。でも、まだ名前はついていないです。すごく楽しいけれど、人に見せることまでは考えられていなくて。
井上:自分がやっていて楽しいと、ハッピーになりませんか?
小川:なります。でも、自分の好きなふうにつくれていい気分、満足、だけだとそれはそこで終わります。
井上:私はアクセサリーを作っていて、出来たものを気に入りすぎて売れなくなって自分のものにしてしまうことがありますが、それはすごくハッピーなことです。
小川:アクセサリーは同じものが作れないから、そういうこともあるのかもしれません。でも考えていることや気づいたことを形にするときは、見られないと意味がない気がします。
上條:つくって、それを人と分かち合うことをどう考えるかが二人はちょっとちがうのかも。分かち合うのは、タイミングもあります。見る人との距離感は、メディアの選択で保てます。例えば本は、まったく閉じているわけではなく開けばそこにいますが、見る見ないの選択は人それぞれ。人が言うことなんて適当なんだから、うまい距離感が見つかるといいですね。
小川:井上さんは服が好きなんですね。なんで美大を受けようと思ったのですか?
井上:好きです。でもそれを仕事にしたいかっていうと、ちょっと違うんです。
小川:作るわけじゃなくて、自分が着るものとして服が好きってことですか?
井上:自分を着飾るのが好きです。人が着る服を選ぶスタイリストとかは向いてないかも。自分の好きな服にあうアクセサリーとか靴とかメイクを選んだりすることが好き。武蔵美に来る前は服飾の大学に半年通っていたんです。そこで服の勉強をしているとき、周りの人はデザイナーとかスタイリストとか服関係で夢をもっていたけど、私は自分で着る服が好きなだけで勉強したり仕事にしたいわけじゃないって気が付いたんです。だからもう大学をやめて、就職しようか悩んだけど、絵を描くのも好きだったし興味もあったので、美大を受験しました。
小川:空デを選んだのはどうしてですか?
井上:広くデザインを学びたかったからです。ファッションコースやインテリアコースなど、選択肢が多いのも魅力的だったので選びました。結果的に3年間で1つの分野に限らずいろいろなことが経験できたので良かったと思っています。
小川:鈴木ゼミを選んだのはどうしてですか?
井上:他のゼミともすごく悩んだけど、鈴木ゼミは色々と自分で選んでやれることが多いのかなと思って決めました。
上條:実際に入って見てどう?
井上:うーん、難しいです。
上條:鈴木ゼミはやることが決まってないから逆に難しいのかなって思う。一緒に考えながらやろうっていうやり方は最初から変わっていないんだけどね。
井上:決められていないものを、自分で考えて決めていくということが実は一番難しいことなんだと、いますごく感じています。

上條:MY DESIGN HISTORYを書いて見て気がついたことはある?
井上:ヒストリーに共通性はないけれど、やっぱり自分がハッピーな気持ちになるものが好きです。その一つのアイテムが服なんだと思います。
上條:自分が心地よくいるためにはどうしたらいいかということ?
井上:はい。いま自分の中で一番ハッピーなのはアクセサリーを作ることなんです。将来的には自分のブランドをもっと大きくしていきたいけれど、そのためには知識もお金も必要になるので、まずは土台作りというイメージで、就職したいなと思っています。だから最初は就活するのもすごく憂鬱だったけど、将来やりたいことのために、って考えるとポジティブに就活もやれるようになりました。
上條:アクセサリーは、服を学んでいた時とは違って作り手になりたいと思ったんだ?
井上:不思議なことにアクセサリーと服は全く感情が別なんです。1年生の時初めて芸術祭でハンドメイド作品を販売したんですけどそれが全く売れなくて。すごくショックだったんですけど、次の年に色々改善してまた参加したんですがすごく売れて。お客さんからかわいいねって褒めてもらえたり、たくさんいろんなお店が出ている中で選んでもらえたのが嬉しかったんですね。それで続けようと思うようになりました。最近はアプリを利用して通販も行っているんですが、購入してくれた人からの感想を聞くのがすごく楽しいです。それが服に対する気持ちとは全然違くて、アクセサリーは自分だけでなく、人のためにも作りたいと思っているんです。