今岡朝子×高橋彩花

今は、ものすごく自分に近づいてきました。日常生活や人付き合いなど、自分がこれから生きていくためにどうやったらうまくやっていけるかなとか(今岡) いそいそは全然したくないけど、でもしないといけない時期かなと思って今やっている。(高橋)

今岡:出身は、関西のほうだよね?

高橋:え、違う。わかんない。富山だから関西ではないと思う。なんで関西だと思ったの?

今岡:関西の人のイメージがあって…まだ聞いたことなかったもんね。

高橋:中心かな?関東だよね?

今岡:うん、神奈川。地方出身だと予備校に行くにも大変みたいなイメージがあるけど、美大を目指すときに大変なことなどあった?

高橋:えっとね、自分のことを結構ラッキーな人だと思っていて、美大に行きたいなって思ったのが高校2年生くらい。先生から、いろんな大学の偏差値と名前が書いてある本を渡されて、「自分の行きたい学部を探して、志望校を考えなさい」って言われたんだけど、見ていてもないの。理系だったから、農学部、水産学部、数学、物理とか、でもそんな狭いわけないじゃんって気持ちから始まって、そこからどこかで気になっていた美術やデザインをやりたいなと思った。それで、その話を友達に話たら、武蔵美出身の先生がいるアトリエを紹介してくれて。だからなんだろう。あんまり難しくなかった。

今岡:すっと決まった感じ?

高橋:そう。何か理由みたいなことあった?

今岡:私の周りは東大や慶應を目指す子ばかりの私立の中高一貫に通っていたの。いろんな大学の情報をみたり、進路を考える機会が多かった。もともとメッセージカードを作ったりするのが好きだった。それにふと美大に行きたいって思った日があって、そこから大きな会場に大学教授がたくさん来て話を聞けるイベントに行ったとき多摩美の先生に「空間を作ることは人を想うことだ。」という話を聞いて、これだって思ったのが始まりかな。私は人を想いたいと思った。最初は多摩美のその先生のところに行きたくて、予備校でも建築科でデッサンしていたけど、建築科が合わなくて、予備校の先生に空デどう?っていう話をもらって、空デになったかな。

高橋:面白いね。

今岡:私も確かに一般大で行きたい学科は全然見つからなかったな。

高橋:一般大に行く理由がわからなかった。みんなの動機が絶対にその学部でこれを学びたい。僕はこれが好きなんだっていう人は少数で、ずっと違和感だった。私は美大に入って色んなことが変わったなってすごい思う。

今岡:どういうことが変わったの?

高橋:初めて人から作りなさいって言われて、それを人に見せて、講評までしてもらってまたすぐに作れるっていうその流れが新鮮だった。それに大学生の新学期の方がすごい馴染みやすかった。作品を作ることは自分の内側をさらけ出している部分があって、普段あんまり話さないことも作品に出して、みんながさらけ出してる分、自分も格好つけなくていいし、それが仲良くなりやすくていいなって思った。だから、すごいこの3年間が楽しかった。

今岡:私は、逆かな。特に1年生がしんどかった。通学も大変で、作るということもよくわからなくて、大学をやめたいって思っていた。でも、大学に入ってからともちゃん素敵だねっていってくれる友達や、いつでも連絡しやすい人がすごい増えたかな。

高橋:結構人間関係だと、壁をバンって立てるよね。どうして?

今岡:距離感が難しいからかな。学校で会っても、挨拶をしたら絶対に返してもらえるっていうお互いの好きがないと、自分からは挨拶ができない。友達というものは、その友達が悲しんでいたら私も一緒に悲しんで全力で考えなきゃって全部を背負う感じがあって、万人を友達と思っちゃうと私は一生悲しみ続けなきゃいけないから、友達か顔見知りの極端な二択を作ることでなんとか自分の心を守っているようなそんな感じかな。あやかちゃんは、日常の気付きをよく捉えている方というイメージがあるのですが、日常生活の中で大事にしようと思っていることはありますか?

高橋:顔は上げて歩くこと。信号無視はどんなに急いでいてもしないこと。どんなちっちゃな道でも信号機があれば止まること、電車は一両目にあんまり乗りたくないこと。基本、家の中じゃなくて外でのちっちゃいマイルールは決めてる。あとは疲れているときは絶対に何もしないで寝る。あと、素直にするようにしている。

鈴木:子どもの頃は自分もそんなふうにしていたけれど、最近は車が来ていなければ渡ることにしていて、むしろ車が来ないのに信号を待っている自分に違和感を感じてしまうんだけど、どう思いますか?

高橋:でも、私は待っているけど、他は急いでいる人とかがいて、無視してさっと行くサラリーマンとかがいると悲しい気持ちにはなるんだけど、あの人は急いでいるから責めないであげようって言う心は持っています。

鈴木:じゃあ、ルールを守っているってことか。

高橋:多分そうだと思います。

鈴木:なるほどね。そのルール自体がどうでも良いとは思わないんだね。

高橋:思わないです。信号機の中に人がいるじゃないですか。あの人にいつも挨拶をしていて、交通安全の横断歩道に立っている人みたいな感覚で信号機のあの人を見ているから、止まるようにしています。

MY DESIGN HISTORY 高橋彩花

上條:建築はなんで嫌だったの?

今岡:最初空間=建築っていう頭しかなくて、予備校の建築科に進みました。建築科のデッサンは目の前に何もモチーフがない。頭の中で構成して、一番いい角度を探して描くっていうことが、私には圧倒的にできなかった。あと一点透視とかパースとかのそういう感覚も弱かった。周りへの劣等感もあって、このままじゃしんどいって思って建築科はやめようと思いました。最後のオープンキャンパスで、片山さんのゼミの雑誌をデザインする課題を見て、私はこっちなんじゃないかって、模型を作るにしても外枠というよりも中を考える方が合ってると感じました。

上條:そういう違和感みたいなものって重要だなと思いながら聞いていて、建築は嫌と思ったとか、でもインテリアならいいと思ったとか、空間は空間のわけで設計はするというところで共通はしているんだけど、結構大きな違いじゃないですか。

鈴木:建築の構造的なことや外側から入って、徐々にインテリアのように人に近づいてきたのではないかと。今はどこまで近づいてきたの?

今岡:今は、ものすごく自分に近づいてきました。日常生活や人付き合いなど、自分がこれから生きていくためにどうやったらうまくやっていけるかなとか、ちょっとずつ社会に出ていく準備をしようみたいなことの方が大事に思って。

高橋:ともちゃんは大きなところから小さくなって自分に近づいたじゃん。私は逆でずっと自分中心の世界で自分の見つけた面白いものみたいなのを、写真を撮ったり、インスタにあげたりしてきた。アンティークショップにも興味があって、お店を回ることが趣味だったんだけど、それが片山さんの授業を受けたときに仕事になるというか、それがインテリアデザインなんだってそこで初めて思って。今はショップに興味がある。

今岡:ぜひ模型の魅力について聞きたい。私はまだ見つけられなくて。

高橋:私も最近やっとわかってきて、その模型の中に入ったときの目線で覗くと、中を自分で歩けるんだよね。歩いていったりすると、ここからは壁があったり、ここから入ってここは見えない。ここからはあそこが見える。そういうのが、だんだんわかってくる。見えると楽しいし、そのベストポジションをどう作るかとか、結構それが楽しいんだよね。ストーリーを頭の中に作るって感じ。お客さんの目線になってこれがあった方がいい、ここはこう曲がりたいとか。こういうところで商品を見た方がより特別なものに感じて買いたくなるよねとか。その周りの空間を作ってあげることに興味がある。あと、模型作りは客観的にみると小ちゃいし、5日間かけたのに全然手数たりてないとか、めっちゃ大変なんだけど、それをガッツで作る感じもすごく好き。

上條:鈴木ゼミに入る時の自分と、ゼミの半年の中でどういう風に変わっていったの?

高橋:私が空デに入るきっかけがそもそも鈴木さんだったんです。もともと鈴木さんをアーティストとして知っていて、作品がずっと好きで、ゼミに入りたいと思って武蔵美に入ったところもあったから、鈴木ゼミに入らなかったらどこかで絶対後悔するなっていうのがあって、鈴木ゼミに結局入ったんだけど、今の興味は変わっていたみたいでインテリアの方に気持ちも取られていたりするのでインテリアに変えました。

鈴木:模型は作り手にとってプランを具現化するために欠かせないもので、身体感覚や頭の中にあるイメージの延長なんだよね。その模型を作ることで、現実以上にリアルに空間の中を歩けたり流れを把握できたりする。高橋さんがインテリアに興味をもったビビッドな感覚は、空間が突然流れをもったストーリーになったり、空間体験そのものの魅力に目覚めたのかもしれない。今、ものすごくドキドキしているんじゃないかなって想像してます。

高橋:楽しいです。すごく。

鈴木:その感覚がつかめると、ジャンルとか職種は関係ないです。実は片山さんのゼミでやっていることと、うちのゼミでやっていることは本質的には近いところがあると思っていて。

上條:空間を編集するって言い方をよくしているもんね。

鈴木:今岡さんも、ZINEの制作で自分のことを題材にするって、自分のことを知らない人が読む可能性の方が高いから、もしかしたら1番ハードルが高いことかもしてないけど、すごくさりげなく、扉の作り方がとてもうまかった気がします。あのめくっていくっていうね。

上條:あと、あの紙の質感だったりとかね。

鈴木:なんかね惹きつけられるよね。「ZINE」で本を解体して作り直す経験をしてもらえたから。あれもかなり広い意味でいうと空間、ストーリーみたいなことができていて。今岡さんって不思議だよね。さっき友達との関係の話もあった
けど、自分の中に閉じているようでいて話を聞いていると、ふわふわってね一緒に揺られて、こっちがついて行っちゃうんだよね。

高橋:うんうん、わかるわかる。

MY DESIGN HISTORY 今岡朝子

今岡:仲良くなる子は、最近すごい私のペースに似てきたなって思います。

鈴木:寄って来るんだよね。おっとりした感じに引かれて。

今岡:言葉使いとか、私の歩くペースに合わせたりとか。大丈夫かなって申し訳なくなる。なんだか私には、合わせてしまう感じがありますよね。

鈴木:やっぱりね、そこまで来ちゃったらね、「私」をとても大切にしてもらいたい人だね。自信持って。

上條:その知らず知らずにペースを合わせてくれるタイミングって結構重要だと思っていて、それは今岡さんワールドに巻き込んでいるわけで、それってなかなかできることじゃない。それはすごい力で、この人の書いていることは共感しなくとも寄り添ってしまう、そういうのってあると思うんだよね。今は自然にやっていることをちょっと戦略的にやってみるとか、そういうのができるようになると作るものの幅は広がっていくんじゃないかなと思う。

鈴木:もし、ものすごく否定されたらどうする?

今岡:ZINEを制作する過程のときに、自分をちゃんと知ってくれている人の中で、どの人に聞こうって考えたとき、絶対に苦手だって思う人にやっぱり行けなかったんです。それは私の課題だなって思うながら制作していました。それが行けるように努力しなければいけないなって。

上條:それが出来るようになることがいいこととは限らないかもしれないけど、
出来るようになるとやっぱり自分というのが自分から離れるようになってくると思うんだよね。そうすると、なんか笑えるっていうか。

鈴木:そのタイミングがいつなのかっていうね。不意に訪れるかもしれないから。今の自分とは限らなく、いつかの自分に届くかもしれないくらいに受け取るということもあるのかなって。

上條:そう、すごい無理してやらなくてもいいかもしれないけど、ふっとやってみたらなんか違う所に行けるような気もするかな。

今岡:今後やっていきたいこととか、春休みどう過ごしてる?

高橋:最近いそいそしている。自分のペースじゃなくて、決められた時間を守っている。今はそれをこなしているって感じで。

今岡:そのいそいそは、本当はあんまり好きじゃないというか、あんまりやりたくないの?

高橋:いそいそは全然したくないけど、でもしないといけない時期かなと思って今やっている。でも、これが一旦落ち着いたら、やればやるだけ実になる感じがしたからインテリアを頑張りたいなって。どう?先のことは?

今岡:私は去年3ヶ月アルバイトをしていた皮靴屋さんに就職をしたいと思っている。それはいろんな職種のアルバイトを実際にしてみて、オフィスの空気感に私は耐えられなかったり、やってみて接客業が合うなって思ったり、そういう空気感で職業を選んでいて、それに毎日そのお店の皮靴を履いているのもあって。そこの店舗の店長さんやスタッフさんがすごいいい人で、ここだったら私毎日行けるなと思うし、もうそこしかないと感じていて働けたらいいなって思っています。