田塩 光HIKARU TASHIO
自分を放出するまでの意思とかエネルギーとかが無いわけではなかったのですが、どう表現すれば良いが全くわかりませんでした。
鈴木:美大を受けるきっかけや動機を教えてください。
田塩:小さい頃からアニメをたくさん見てたので絵を描くのも見るのも大好きだったんですけど、絵を描くことは趣味でもできると思っていたので、美術大学には行かなくても別にいいかなと思っていました。でもいざ他にやりたいことを考えたときに入りたいと思う学科がなかったんです。なので消去法的に残っていたのが「美術」だったので美術大学を選択しました。
上條:なぜ空間演出デザイン学科を専攻しようと思ったのですか?
田塩:明確な目標がそもそもあったわけではなかったので、専門的な工デや視デではないなと思いました。その点、空デは許容がある感じがしたんです。まだ何がしたいのかわからなかったり、探っている人へ自由に探らせてくれるというイメージがあったので、ここに入って考える時間を作りたいなと思い専攻しました。
鈴木:鈴木ゼミを選んだのは?
田塩:入学式のときに学科の先生方の挨拶があって、そこでの鈴木さんの挨拶が印象的で「この先生のところ行ってみたいな」と思いました。
上條:鈴木さんはそこで何を話したか覚えてますか?
鈴木:もちろん覚えてないです(笑)
田塩:私は今でも覚えてます。ゼミに入って鈴木さんが何を考えてるかとか、お話しを聞けたらいいなと思っていました。
上條:田塩さんは高校までバスケットをやっていたそうですが、美大に入ってみて周りが「美大生」という環境をどういう風に感じましたか?
田塩:当時は「デザイン」についてまったくわからないし、考えたこともないですし、1、2年生はいっぱいいっぱいでした。自分を放出するまでの意思とかエネルギーとかが無いわけではなかったのですが、どう表現すれば良いが全くわかりませんでした。
上條:作品を見て「面白いな」と感じたり、授業を聞いていて「面白い」という感覚は普通にありましたか?
田塩:そうですね。なんでこんなのができるんだろう、どう考えたらこうなるんだろうってずっと考えてました。
鈴木:自分の考えや思いをアウトプットするときに、よく使う素材もしくは扱いやすい素材はありますか? 例えば日本語も英語も誰しもそれなりの長い時間をかけて身につけているものだと思いますが、美術大学はいわゆる既成の言語へのもどかしさを持っている人が少なくないと思います。自分なりの言葉となる表現を探る時間を1年生から与えられてきたわけですが、3年間の中で自分が見つけた考え方や言葉はありますか?
田塩:言葉じゃなくてもいいんですよね? 日常で電車に乗ることが多いのですが「この人どの駅で降りる」っていうのが大体わかります。
鈴木:それはすごいですね。どう見分けるのか、ぜひ教えてください。
田塩:ひとつは座り方ですね。完全に椅子に体を預けきる方、少し肩が緊張気味な方、さまざまあるのですが、ヒントの一つとして見ています。他の手がかりとしては、何をどうやってるかとか、服装とかですかね。例えばすごい田舎の方から都内に行く電車にお婆さんが乗ってきたとして、仮にすごく良い服を着ていた時には都内に行くのではないかと予測したり、逆に気張ってない服のときは遠くまでは行かないかなと考えたりします。でも服に関しては、いつもラフな格好のスタイルの人もいるのでそれだけではなかなか判断できないです。
上條:なるほど、そうやって人を観察しているんですね。
田塩:人を見ているのは好きかもしれないです。特別何かに活かせている訳ではないんですけどね。
鈴木:そういう意思を持っているか持っていないかによって見方って全く違うと思うんです。物事って繋がっているから、直接ではなくてもどこかで活きていると思いますよ。活かしていきたいという気持ちはありますか?
田塩:はい。何かに活かしていけたらとは思っています。
上條:これからゼミでどんなことをやっていきたいですか?人の観察が好きなら、電車の中でももっと広く見てみてもいいかもしれないですね。
田塩:なるほど。ゴール地点を変えてみるということですね。
鈴木:誰もやっていないことに鼻を効かせることも大事ですが、自分がやっていて本当に楽しいと感じることを軸にしてやってみるのも良いと思います。
田塩:はい。春休み期間中に電車に乗る機会がすごく多いので、じっくり観察していこうと思います。