小曽根春佳HARUKA OZONE
ファッションや音楽って常に新しく更新されていくものですが、より自分に合うものがあるんじゃないかと、古いものを掘り下げるのが楽しいんです。
鈴木:たくさんある大学の中からなぜ美大に入学しようと思ったのか、きっかけについて話してください。
小曽根:はい。小さい時から絵を描くのが好きで、私にとって美大は特別遠い存在ではありませんでした。高3になって進路を決めなきゃいけない時期に服が好きだったので、専門学校も考えたのですが、見学をしてやっぱり大学がいいと決めました。あと、当時は京都に住んでいたのですが、東京に出たかったのもあります。
上條:ものづくりで、絵を描く以外でやっていたことはありますか?
小曽根:中高校生の時にロリータファッションやヴィジュアル系に感化されて、服を作ったりしたのですが、ものづくりに関しては飽きやすかったので、やり続けていけるような創作はありませんでした。
上條:武蔵美に入ってみてどうですか?
小曽根:価値観がすごく変わりました。それまで持っていた固定観念が打ち砕かれた、と言えるくらいです。特にファッションの授業を通して、好きなものを外から見る視点が芽生えて、ファッションを学ぶということは普遍的なものを見つめることでもあるということに気づきました。
鈴木:ファッションの授業で打ち砕かれたきっかけはありますか?
小曽根:グループワークがきっかけです。みんなの主張が強い中で、どう自己表現を結び付けていけばいいのか常に悩んでいました。
鈴木:クリエイターのグループでは、同じ役割をする人がいなくて成立する。学校はそうではなくて、自分のものをやりたいっていう人がいたらぶつかるのが基本で、その中でどう学ぶというのが課題です。少し引いた上で、この人がいいと思うからサポートしようと思わない限り、グループワークは成立しない。そういうことにも突き当たっていくし、グループワークをするときにそこでぶつかってしまったら勿体ないとは思います。グループワークをすることによって、こんなことを考えている人がいるんだということに触れられたのはすごくいいきっかけになったのかなと思って。この人には負けられないって思ったときにじっとしてはいられないのでは。真逆なものがいいと気づかせたりとか。私はこれで人の意識を変えたるわ、というのを服作りだけではなく、それを今探しているのではないでしょうか。
上條:最初にファッションを好きになったとき、ここのブランドのこのアイテムを持っていたらテンションが上がる、みたいなポイントはありましたか? 強い嗜好がある人たちのこだわりは、上には上がいる世界。でも、まず好きって思ったものを大切にしていくことは重要だと思います。そうじゃないと、大勢の人に受け入れられるものを作ろうと思ったときに、どうしたらいいかわからなくなりますよね。いいねって思うものをデザインするにはこだわりが必要です。
小曽根:私はロリータ服に関しても、ヴィジュアル系の音楽に関しても、今のものより90年代のものが好きでした。ファッションや音楽って常に新しく更新されていくものですが、より自分に合うものがあるんじゃないかと、古いものを掘り下げるのが楽しいんです。それは多分、自分が生まれる以前にあったものに憧れを抱いてしまうからです。その時代をリアルタイムで経験してないからこそ新鮮に見えるっていうのがあります。
鈴木:どういう風に自分が生まれた以前のものを知りたい、関わりたいのですか?
上條 小曽根さんの好きなものっていうのはなんとなくわかったのですが、自分の表現するものとまだ結びついていない。社会に対する問題意識を持っているかどうか、それを作品だったり表現に落とし込むかどうか。音楽をするにしても、演奏を上達したいのか、お客さんとのインタラクションを楽しみたいのか。そこで、自分がもう一歩足を踏み入れてやっていきたいな、ということが出てくるとスピードが早まるような気がします。
小曽根:私は、グループ課題で痛感したように、自分の意見を貫き通すよりも、自分がいいなと思える人やアイデアを支えることに専念したほうが、より力を発揮できるんじゃないかなと思っています。ヴィジュアル系バンドに情熱的だったのも、CDを買ったりライブに行ったりすることによって、活動を支えるという役目に身を置くことができたからだと思います。今はアルバイトでバーテンダーをしていますが、そこでもメインであるお客さんの話を、脇役の私が聞いている、という関係だから落ち着くのです。それなので、これからも自分が応援したいと思えるようなこだわりを持った人や場所に携わりながら、裏方として支えて生きていきたいと思います。