髙橋大輝DAIKI TAKAHASHI

もともと制作をする時に、例えば課題があった時、その課題に対して考え方とかプロセスをおざなりにしてはいけないと思っていて、そこに重きを置きたかったんです。

鈴木:まずは美大を受験した理由を教えてください。

髙橋:高校がデザイン科だったんです。
もともと工作が好きで、高校を選ぶときに美術系がいいなと思ってました。どうせ美術系に進むならパソコンも使えたほうが後々いいと考えてデザイン科に進学しました。

上條:美大もいろいろあると思うんだけど、普通の高校に行ってる人よりは知識があったのかな。

髙橋:そうですね。教室の前の廊下に資料があるんですよ。いろんな大学とか、専門学校の。その中に武蔵美の冊子が置いてあったんです。なんとなく読んでいたら空デのことが書いてあって、興味を持ちました。その当時はセノグラフィ志望だったんです。

鈴木:舞台をやりたかったんですね。

髙橋:セノグラフィ志望ということもあって、多摩美の劇劇場美術デザインと迷ったんですけれど、なんでもできたほうが楽しいんじゃないかと考えて、空デを受験しました。

鈴木:空デなら舞台だけじゃなくて、他にもいろんなことがありますからね。

髙橋:いろんな分野が集まってたほうが舞台をやるのにいろんなことができるかなと。

上條:どうして鈴木ゼミを選ぼうと思いましたか?

鈴木:入学当初の志望と違ってセノグラフィを選ばなかったのは大きいですよね。

髙橋:空デは3年生の前期にコース選択があるんですけど、そこでセノグラフィを選択したんです。3課題セノグラフィをやってみて、違うなと思ったんです。

鈴木:それはどうして?

髙橋:セノグラフィを志望している学生のなかで、舞台的に迫力のある大きなものだったり、派手さのあるものを作った方がすごいという空気を感じて、そこで自分はこことは違うところにいたいと思いました。
自分は作品を作るとき、日常やその場の空間を大切にしたい気持ちがあるので、そこが少し受け入れられませんでした。それともう1つ、作品を周りから環境コースっぽい、鈴木さんっぽいと言われて。

鈴木:それはマイナスのイメージなのかな。

髙橋:多分、捉え方の話じゃないかなと思います。

鈴木:いわゆる劇場の中の舞台空間とは異なり、その場所にあるものや空間を使うこと自体が広い意味での編集行為なので、その人らしさがより出ると思います。髙橋くんの作品は少なくとも鈴木や鈴木ゼミっぽさはないと思います。

髙橋:日常の中から派生していくこととかが、環境コースっぽさを出してるらしくて。それがすごく悔しかったです。

鈴木:髙橋くんは小さいものや細かなものが好きなんですよね。

髙橋:そうですね。手のひらくらい、そこに収まるくらいの世界観が好きですね。身の丈というか。

鈴木:パトリックゼミと鈴木ゼミで迷っていたと聞いていたけれど。

髙橋:もともと制作をする時に、例えば課題があった時、その課題に対して考え方とかプロセスをおざなりにしてはいけないと思っていて、そこに重きを置きたかったんです。自分の考えを突き詰めていく、見直すっていうのを作品ごとに一回一回やっていきたいんです。そういうところを大切にしていけるゼミと考えた時、パトリックゼミと鈴木ゼミが出てきました。

鈴木:クライアントワークに進むにはまだ自分自身のことを置いておけないんですね。舞台美術という仕事もデザイナーとして徹するというようなところがありますね。プロフェッショナルに到達するまでの時間をどう過ごすかということは美大にとって重要な課題だと思います。

上條:鈴木ゼミでは、ある条件、例えばどういう立地でお店とかを作るようなこととは全然違うことをやっているのだと思います。クライアントワークだったとしても、結果として
その人らしさがディテールに表れてしまう。その根本の部分をきちんと見つめる時間にして欲しいと思っています。

鈴木:そこに目を向けないと技術の話になっていきます。技術が身についた上で出てくるその人の持ち味は、5年、10年取り組んで出てくるものです。今この時点でみんなと考えられるのは、一般の教育を受けてきた上で失われていたり隠されていることや、その人が今まで見たり考えてきたことをリアライズすることだと思います。

上條:学生のうちに1度自分が考えていることを出してしまうような作業かもしれません。クライアントワークとかと行き着く先は同じなのかもしれないけれど、行き詰まった時に頼りになるのって結局自分しかいなくて、はじめに自分が持っているすごく小さなこだわりみたいなものを自覚して客観視できるようになって欲しいなと思っています。

鈴木:自分を生かすというか。自分がどういう時にどう感じているのか、半ば刷り込まれてきたところを捉え直すことで、教育や知識ではない部分の開発をしていくということを、積極的にやっています。

髙橋:今自分たちがやっていることは、大学生という立場だから許されているところがあると思っているので、ただ課題をこなしていくだけというよりは、その手前の部分を掘り下げていった先に、いったい何があるのかを知っていた方が、今後も自分のためにいいかなと思ったんです。そういった部分を重要視して積極的に許しているゼミというところで、鈴木ゼミに入ろうと決めました。

鈴木:これからはどんなことをしていきたいと思っていますか?

髙橋:個人としては、卒業制作までに今まで触れてこなかった制作に取り組んでみたいと持っています。パフォーマンスやショー形式の生の人間が関わってくることをやりたいです。
ゼミとしては、ゼミという枠組みの中でゼミ生たちがひとまとめじゃなく、いろんな人間がゼミ生として集まっての鈴木ゼミでありたいと思ってます。個人があってできているのが鈴木ゼミ。けれど、今はまだ鈴木ゼミが一緒くたに見られてしまうのが、悔しいところです。一個の団体というよりは、個々の集まりが鈴木ゼミと言われたいですね。