西川あゆAYU NISHIKAWA
自分の中にはいろんな自分がいて、許容できるものの幅は広いですが、普段なにかに接するときに自分との距離感みたいなものを計ってしまう傾向があって。

鈴木:なぜ美大に入ったのか、あるいは鈴木ゼミに入った理由をおしえてください。
西川:わたしはもともと前にいた一般の大学を途中で辞めて、ムサビに入りました。辞めたあと、どうやって生きていこうかと考えたときに、自分の好きなことで仕事をしたいと思ったんです。インテリアが好きで、デザインをやりたい。そう思って空デに入りました。
3年の前期まではインテリアコースを選択していたんですが、そこで初めて自分が作ったもので自分の伝えたいことが伝わったと思ったんです。それがすごく嬉しくて。でも、だんだんとインテリアコースでやってることが、自分と遠い気がしてきたんです。自分の中にはいろんな自分がいて、許容できるものの幅は広いですが、普段なにかに接するときに自分との距離感みたいなものを計ってしまう傾向があって。もっと自分の感覚と近いところで作品を作りたいと思ったときに、それができそうなのが鈴木ゼミだと思ったんです。
鈴木:西川さんは自分の気持ちにフィットする方を選んだわけですよね。今の自分がやりたいと思うことをやったらいいのか、それとも一見関係ないと思うことでもやってみるべきなのかは、今後学んでいく上で常に自分自身のテーマになってくると思います。好きか嫌いかという判断は正反対でかけ離れているようでいて、実は紙一重だったりしますよね?
西川:なんでも表裏一体ですよね。わたし、自分が思ったことに対して本当にそうなのか? という気持ちが常にあるんです。例えばこれが好きだと思っても、本当にそうなのかな? とか、だれかの言う「これ好きなんだよね」、の好きはどれくらいの気持ちで言ってるのかなと思ってしまうんです。たぶん頭では、自分の気持ちがこれくらいの大きさであってほしい、みたいな感覚があるんです。でもそこまで到達できてないと思うから、むやみに言えないというか。
上條:それはある意味すごく正直だけど、ひょっとしたら悪い癖になっているのかもしれないですね。ものすごく純粋にわたしこれ大好きなんだよね、って言葉にする人の「好き」と、西川さんがいろいろ考えて、やっぱり言わないでおこうかなと思った「好き」はそんなに変わらないんじゃないかな。結局本当に好きかどうかは、誰にもわからないことだから。
鈴木:自分でもわからなかったりするでしょう。
西川:わからないです。
上條:でも、その違いに目をつけているのは一つ西川さんが持っていることだと思うので、自分が思う違和感みたいなことはなにかしら繋げていけるかもしれないね。
鈴木:ゼミ展の作品制作はどうでしたか?
西川:ずっと、自分が伝えたいことを伝えたかったんです。でも人によって全然見え方が違って、思いもよらない感想をもらったときの発見や体験は面白かったし、伝えたいことが伝わるっていうことだけがいいというわけではないと思えました。でも、ますますものを作るってそうとうの気持ちがないとできないなと。自分の中にある、この感覚をどうにかしたいっていう、その気持ちゆえにものを作ると思うので。ものなんて死ぬほど溢れていて、わけのわからないことになっているのに…。だからみんなどれくらいの気持ちで作っているんだろうっていうところになるんですけど(笑)。
鈴木:ちょっと変な表現かもしれないけど、美大では頭で考えなくても、「つくる」ということが「考える」ってことだったりもしますよね? 社会の中にいくと、ルール化されたシステムしかなく、経済活動を優先した自動的にものが作られる仕組みができている。でも実は社会には収まらないもののつくり方や生まれ方が見えないところに常に眠っていて…。西川さんはその潜在的な部分に反応しているんじゃないかな。いっぱい溢れているから作らなくていいとか、作る必要がないということではなくて。
上條:ものを作って人と共有することで、だれかの心を動かしたり、だれかになにか別の体験をさせるっていうことができると思うので、その体験が大きければ大きいほど、またものを作りたくなるんだろうね。
鈴木:ものは溢れてるけど、あのテントそのものを作った人はたぶん人類初だと思わない?
西川:たしかにそうですね(笑)。
鈴木:経済活動のためのもの作りは、どんどん縮小していってもいいのかもしれない。けど、ああいった見たことないものだったらもっと作った方がいいと思う。観た人がインスパイアされてふつうの世界がふつうじゃなくなる。そんな未知の体験を提供することは今後もっと重要なサービス業になっていく可能性はある。個人的な視点で仮説を立てて、体験を生み出す視点で実際に検証していくっていうのが、うちのゼミでやろうとしていることかもしれませんね。
これから制作していく上でどんなことを考えていますか?
西川:去年のインテリアコースの課題の話になるのですが、《books less books》という本の見えない本屋を作ったんです。
すべての本は箱にしまわれ、箱にはその中の本の一節が書かれていて、そこから自分の内側に刺さるものを選び、箱を開けてはじめて本と出逢うという仕組みです。ふだん本を選ぶときにたよりとなるタイトルや著書、装丁などの情報を一切なくして、言葉や文章だけで本を選ぶという体験のできる空間を作りたくて、考えました。
求めている知識や情報を得るためではなく、その人のすごく個人的な感情やこだわりに結びついたり、思わぬ感覚と出逢えるようなことがしたいです。
本だけに留まらず、日常の中で接しているものがいつもとは少し違って見えてくるような、もっと自由なものと人との出逢い方や関係を探っていきたいと思っています。