小髙麻子ASAKO KOTAKA
前提として自分は嘘が嫌いでは無いと思うんです。寧ろ好きな方なのではないかなと。

鈴木:ムサビに入ろうと思ったきっかけと、空デを選んだ理由を教えてください。
小髙:三谷幸喜さんの映画『マジック・アワー』のセットを見たのがきっかけで、舞台美術の世界に興味を持ちました。その流れで舞台美術に詳しい方々が揃っていると聞いていた空デのセノグラフィコースを目指してムサビに入学しました。
鈴木:なぜセノグラフィ志望だったのに、鈴木ゼミに入ったのですか? セノグラフィは基本的には集団行動ですが、小髙さんは得意ですか?
小髙:苦手ですね。ですから、あの頃は自分のやりたい事の本質を知らずに過ごしていたのだと今は思っています。epa! やゲキムサ等、舞台制作に携われるサークルに参加していた時期もあったのですが、その中で体力面や自分の思慮の浅さを思い知った部分もあります。
鈴木:セノグラフィへの思いはまだあるのでは?
小髙:過去にセノグラフィを担当されている小竹先生の授業を受講していて、その中で「嘘の世界」という言葉を仰っていたことがありました。最初はそれを自分はしょせん夢のような世界を作るということと捉えていました。でも、だんだん自分がその嘘を作り上げることというのが、何か違うような気がしてきてしまいまして。
上條:その「嘘の世界」を作ることに違和感が出てきたということですか?
小髙:そうです。しかし、これは嘘という言葉に対してすごく表面的な話になってしまうかもしれませんね。
鈴木:小竹先生が「嘘の世界」という言葉で表現していることはとても複雑で、まさに演劇的な表現で、いわゆる「嘘をついてはいけません」のレベルではないですよね。
小髙:はい、分かります。
鈴木:でも、例えば大人は「必要な嘘」をついて逆に人を傷つけないようにする。そこに意味がある、っていうのもあるよね。そういうことをわかった上で「嘘」を表現していくのは、人間としての深化だとも思います。それでこそ、演劇は現実とは全く違う世界を見せてくれる素晴らしい機能を担っている。
小髙:はい。
鈴木:小髙さんが違和感を感じた部分ってどういう所ですか?
小髙:前提として自分は嘘が嫌いでは無いと思うんです。寧ろ好きな方なのではないかなと。
上條:私もそうだと思います、本が好きな人ってそういう人多いですし。嘘というのが悪いことではなくて、日常への扉が開いてるか開いてないかという所なんじゃないかなと。
小髙:そうですね、境目の難しさがありますよね。それで今回、インタビューということで自分が好きな本を持ってきました(持参した本を取り出しつつ)。まず、この『「さむがりやのサンタ」』なんですけれど、主人公のサンタが少し皮肉屋で…(本を開きながら紹介)。
鈴木:本屋さんに就職したいという話をしていましたよね。本屋さんではさまざまなニーズに応えていくことが優先されると思いますが、そうなる前に、まずは自分のラインを高める。それが元になって他人のテーマでも考えられるようになる。それが無しになると、単なるマニュアルみたいな紹介になっていく。
上條:でも、今の紹介の仕方は良かったです。本当に好きでディテールをよく知っているからだと思っているからだと思いますね。気負わずに説明してくれただけだと思うのですが、面白いなと思いました。
小髙:次は『「くまのプーさん」』です。この本は作者さんが実の息子に眠る前に聞かせてあげていた寝物語が元になっています (ページをめくる)。この前書きなのですが、途中で「ここまで書いてくるとコブタが『僕の事は書かないんですか』ときいきい声で聞きました」と言う一節が出てくる。もう前書きから寝物語の世界に入り始めているんですよね。
鈴木:面白いですね。起きている時間と眠る時間の間ってことですよね。
上條:前書きが良いというのも、既に登場人物の一人が出てきてるという所が曖昧な境界の中で、物語の世界に入り込みやすくしているのでしょうね。予め劇場がセットされていてその中に意気込んで入る感覚とは違いますよね。その自然なルート作りがされているのが上手くフィットしたのかもしれませんね。
小髙:そうだと思います。
上條:本の良い所は一対一で接する事が出来る所ですよね。
小髙:そうですね。3年の頃にファンタジーへの「扉」というテーマで課題があったのですが、その時に、私は本をモチーフに作品を作っていました。そこで、「もしファンタジーへ繋がる扉があるならば、この位軽くなければいけない」と言うような事をキャプションに書いた事があり、今もそのつもりでいます。
上條:「境界」というのと「本」というのがキーワードになってきそうですね。フラッシュモブや寺山修司の様に街で演劇を始めたり、そういう事と今回持ってきた本のようなファンタジーなものを繋げられると良いですね。
小髙:はい、どちらも好きなものなので一緒に突き詰められたら良いと思います。
鈴木:他にも紹介したい本はありますか?
小髙:はい、あります。
鈴木:空デだから空間を作らなければいけないという訳ではないですが、「場」をつくるってことだと思うんです。図書館をつくるということではなくて、「本のある場所をつくる」ということ。
上條:そうですね。本のある空間を作るか、その本の中で起きている嘘の世界を作ってそれを日常と上手く接続しながら体験できるようなものが作りたいかという所でまた分かれてくると思います。その辺りももう少し考えてみると良いかも知れません。
小髙:そういうシステムを作ってみるという手もありますね。
上條:今回はこうして本を説明して貰う事が出来て手に取ろうと思うことが出来ましたが、それを一人ひとりにというのは難しい。それを空間的に作ることが出来たら良いですね。
小髙:はい、どういう空間を通して1ページ目を開かせるかというのが重要になりそうです。