遠藤遥×杉本暉
あ
このインタビューのペアはくじ引きで決めたが、たまたま同じマンションに住んでいる上下の住人がペアになってしまった。これは2022/04/23 21:30に杉本暉の部屋で行われている。
杉本暉(すぎもとひかり)305号室遠藤遥(えんどうはるか)205号室
杉本:あ、もう録ってんねんな?じゃあ、まずなんで美術系目指したかの話しようか。
遠藤:ああ、どっち先話す?
杉本:じゃあ僕から話すわ。でも僕なんかさ、盛り癖じゃないけど、
遠藤:わかる。ちょっとあるよね。
杉本:いやだいぶあるよ。だからまあ、今から話すことが本当かは僕にもわからんねんけど。僕もともと建築行こうと思っていて、美術系の教室行っててんけど、予備校じゃなくて、もっと小さいこじんまりしたとこやねんけど。そこで、建築(系の大学)を目指してたわけ、最初は。それは就職的に安定してそうだったから。美術系よりはね。で、そこの予備校に女の子が一人いて、結構可愛い子やってんけど、まあ別に好きとかじゃなかった。
遠藤:好きではなかった、友達?
杉本:友達でもなかった。俺だけ別のコースいってて、俺以外みんな仲良かってんけど、浪人生の曜日が違う日に行ってたから、関わらんかったんよ。んで、夏の合宿みたいなのに行った時に、その子が俺に結構親切にしてくれて。それで相談をしてきたんよ。その教室の先生は、写実的な女の人のヌードとかを描いてるような先生で、「先生にヌードを描かせてほしいって頼まれた」みたいなことその子に言われて。
遠藤:えっ、ちょっとまって…、ドン引きなんだけど…。
杉本:そう。俺も思春期真っ盛りで、話を聞いた時にすごいショックで、結構親身になって考えてさ。
遠藤:え?(女の子は)未成年でしょ?
杉本:そうそう。高校生。
遠藤:未成年のうちにヌードを頼んだってことでしょ?
杉本:そう。えぐいよね。その相談をのってるうちにちょっと気になってきて、その子が東京藝術大学目指してたから、俺もそこを目指したっていう。それが美術系を目指したきっかけかもしれん。もっと遡ると、小学生の夢が画家で。でもその頃は宇宙飛行士だったり画家だったり…。
遠藤:ね、結構バラつくよね。
杉本:そう。バラつくし、画家っていうのも適当…まあ、絵描くの好きだったから。
遠藤:絵描く仕事=画家、漫画家!みたいなね。あの頃デザインとか何も知らないから、絵描くことがそのまま仕事になると思ってた。私も一応漫画家とか夢だったから。
杉本:その頃さ、今ぐらい絵を描けるって思ってなかったじゃない?
遠藤:あー、まあね。ちゃんとした絵を学ぶっていう概念がなかった。ただ好きに描いてただけだったから。どのくらいから絵を描いてた?
杉本:えっと…俺は、幼稚園から描いてた。
遠藤:物心ついた時から…だよね。美大の人ってほとんどそうなんじゃないかなって思うんだよね。友達とかに聞いてもそうだし。
杉本:でも普通子どもってそうじゃない?みんな大体そう。
遠藤:そう、なんでみんな絵を描くんだろう?
杉本:それは、なんか、教育じゃない?
遠藤:絶対、幼稚園でスケッチブックとペンを買わされるじゃん。それで「お絵描きの時間です」みたいな感じで。
杉本:子どもにスケッチブックとペン渡さんかったら何するかわからんやん。虫殺して食い始めるかもしれんし。
遠藤:トンボの羽ちぎったり、アリの足ちぎったりね。
杉本:ろくなことせんから。俺アリ食っとったから。
遠藤:あれ酸っぱいんでしょ?
杉本:そう。まあだからじゃない?根源的にそういうのが好きかもしれんから。え、遥はなんで美大入ろうと思ったん?
遠藤:端的に言うと、勉強したくなかったから。本当に、普通の勉強が好きじゃなくて。中学の担任の先生におすすめされたのが県内に1つしかないデザイン科のある高校で。1期と2期ってあるじゃん?その1期でデッサンと面接だったから。「あ、これ勉強しなくていいじゃん!絵だけ描いて受かるなんて最高じゃん!」って、大学もそう。でもデザイン科にはいった時は美大の存在とか知らなかった。東京藝術大学すら知らなかったの(笑)。
杉本:デザイン科行ってたらさ、デザインのこととか勉強するんでしょ?
遠藤:する。でも結局田舎のデザイン科だから、みんなが絵上手いというわけでもなくて。
杉本:結構絵とか描くんじゃないの?
遠藤:描いてた。1年生の頃から、素描の授業でデッサンを描いてたり。でも真面目にやっている人はあまりいなかったかな。
杉本:今は、高校の友達はみんな美術系いってるの?
遠藤:うん。もちろん普通に就職した人もいるけど。お金がない、学力が足りない、画力がない…とかで。そういう子もいた。
杉本:今は絵描くの好きなん?
遠藤:好き。だけど、昔より描く時間は減ったかな。
杉本:なるほど。え、他に何が好きなん?結構意外やった。美術系の高校行ってるのが。
遠藤:私?
杉本:うん。僕からするとめっちゃ羨ましくて。僕の学年で美術系いってる人僕一人やし。美術系とかにいっていたら絵を逆に好きじゃなくなる瞬間とかあるの?
遠藤:美大にはいってからも思ったけどさ、上には上がいるよなって。中学の時とかは、私が一番絵が上手いって思っていたから。卒業文集に代表でイラストとか描くじゃん。それも、「遥絵うまいからやればいいじゃん!」みたいな感じで、他のクラスよりも圧倒的に自分が上手いわとか思ってたし。実際。でも高校で美術が好きな人たちが集まったら、ああ、もう全然、自分…そんな上手くないんじゃん…って思い知らされた感じはあった。高校はいってからも思ったし、武蔵美っていうでっかい東京の大学はいってからも思った。
杉本:ああ。でも今回とか、インタビューの課題やったらさ、イラストの上手さで決まるわけやないやん。
遠藤:そうね。絵の上手さだけが全てではないっていうのは自分にとって救いかもしれない。でも、自信のある分野とかはないかな。どの分野においても自分より上の人がいるな…って。まあ当たり前なんだけどね、当たり前だけど…思っちゃって、「ウッ」ってなっちゃう。
杉本:上には上がいるって考えは今も持っているってこと?
遠藤:うん。わりと昔から、嫉妬しちゃうっていうか。人気者の子とかに、あぁいいなぁって思っちゃうから。でもその子に負けないように努力しようとかそういうのは全然なくて。ただ単に、羨ましいなあって思うだけ。それが自分の悪いところだなあって最近思う。
杉本:わかるわ、それは。
遠藤:最近は、楽しいことをやって生きていきたいなっていうのをスタンスでいるかも。だから、鈴木ゼミにはいったってのもあるのだけど。一番授業をやっていて楽しかったから。
杉本:どの授業?
遠藤:2年生の授業で、「空想する紙」っていう、紙の新しい可能性を考えて制作するような授業。あれが楽しかったな。
杉本:ああ、俺もとってたわ。
遠藤:とってたよね。私はパラパラマンガをエンボス加工でつくるっていうのを考えて。でもそれは鈴木さんが既にやろうとしてて断念したアイデアだったんだよね。だから「ぜひやってみてほしい」って言われた。講評で鈴木さんに「少し悔しいです」って言われた時は嬉しかったな。
遠藤:そうだ、家族構成ってどうなってる?
杉本:父と母と妹やけど、お母さんがパリに住むのが夢で1ヶ月パリで暮らしてる。ゆくゆくは物件買うつもりで。
遠藤:行動力すごいね。なんか納得したわ。ひかりって行動力があるから、お母さんから受け継いでるのかなって思った。
杉本:ええ、僕行動力ないよ。
遠藤:え!?あるよ!1年生の授業の空間演出デザイン論でも毎回一番前の席に座ってたし、自分から質問してたからさ。
杉本:それはあるかも。タイに行った時に象のパレードを見てて、そこで象のマッサージを受けれたのね。そんなんさ、ワンチャン死ぬやん?誰も手あげなかったのに、お母さんに「ひかりお前行け!」って言われて(笑)。
遠藤:お母さん強いな〜。親に言われたら抵抗できないしね。
杉本:そうそう。でも授業では前座ったほうが色々と得じゃない?
遠藤:まあそれはわかってるけど、質問当てられたら嫌だし…。とか思っちゃう。私もわりと前に座りたかったんだけど、友達は「そんなに前行くの…?」みたいな感じだったね。
杉本:俺の友達もみんな一番後ろ座ってたよ。
遠藤:それで一人で前に座れるのがすごいわ。
杉本:そっちの家族構成は?
遠藤:父と母と兄!でも普通の家庭って感じ。父はサラリーマンで母は専業主婦。兄はパートで働いてる。親がデザイン関係の仕事してるとか、美大出身っていうのも羨ましいなあって思っちゃう。
杉本:まあ僕の親も両方違うわ。親は1ミリたりとも美術に関して興味はないの?
遠藤:1ミリかどうかはわからないけど、ほぼないね。デザイン関係の知識もないし、画家の誰かが好きとかもない。
杉本:そうなんや。僕のお母さんがスタイリストでさ。アーティストと仕事する時もあったけど、金としか思ってなかったな。だからデリカシーないことめっちゃ言うよ。お父さんは昔美大に行きたかったけど、お金がなくて行けなかったらしい。
遠藤:そうなんだ。学費とか…色々あるしね。なんか、私率直に「好き」って言えるものがあまりないんだよね。強いていうならゲームと…人間観察かな?
杉本:人間観察いいね。
遠藤:バイトでプールの監視員やってるけど、自分に向いてるなって思う。
杉本:それをちゃんと見えるかたちにしたら?石膏デッサンやったくらいにさ、インタビューとか人間観察を突き詰めていないから。もしかしたらそれがトップになれる才があるかもしれん。
遠藤:そうだね。卒展もその方向でいきたいなって思ってるから。頑張る、ありがとう。ひかりはオープンキャンパスの時から鈴木さんと話したことあるって聞いたけど、その時から鈴木ゼミに入りたかったの?
杉本:いや全く。何ゼミでも良かったけど。
遠藤:1年生の時の製図の授業は建築製図?
杉本:いや、ファッション製図。
遠藤:だよね。だからファッションのゼミに行くのかと思ってた。
杉本:あの時はファッションの方がイケてる感じがした。
遠藤:雰囲気(笑)。なんでファッションだったのに環境になったの?
杉本:なんか若い人のゼミの方がいいかなって思った。そしたら鈴木先生がいいかなって。僕は人との思い出を大事にしていて、そこにドラマを感じたら熱狂できるタイプやから。
遠藤:そこはなんか、盛り癖と繋がってそうだよね。
杉本:そうだね。だからまあ、何が言いたいかって、鈴木先生とドラマを感じたからかな。
遠藤:いいね。鈴木ゼミに入ってみてどうだった?
杉本:なんやろうな、もっと面白くできる気はする。
遠藤:この前もそれ言ってたね。私もゼミのみんなが気軽に発言できる空間になればいいなと思う。話し合うことって大事だから。
杉本:まあそうね。僕も話し合いからは逃げない。
遠藤:当たり前なんだけど、みんな違う考えを出してくれるから。いろんな視点があって面白いからね。
杉本:すごい、いいこと言いますね。
遠藤:いいこと言おうとして言ってるわけじゃないよ(笑)。話し合いから派生するけど、私が生きていくうえで大切にしていることがあってさ。
杉本:何?
遠藤:もうすぐ三回忌になるんだけど、祖母が亡くなった時に色々と後悔して。人間いつ死ぬかわからないから、その時その時に優しくできなかったり、嫌な態度をとってしまったりして、次の日その人が亡くなってしまったら、すごい後悔するだろうなって思いながら生きてる。だから、尊重と思いやりを大切にしてる。
杉本:いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
遠藤:この歳で気づけたのは良かったと思う。
杉本:うん、良いと思う。いや〜グサッとくる言葉やね。人としての格の違いを見せつけられた感じするわ。いいキャラしてるね。
遠藤:ありがとうございます。私も、ひかりのキャラは好きですよ。キャラっていうとつくっている感じになっちゃうけど。
杉本:まあまあまあまあ(笑)。だいぶ話したな、そろそろ帰る?23時やし。
遠藤:うん、帰ろうかな。階段降りるだけだけど。おやすみ。
杉本:おやすみ。