池田美紀×土井英那
あ
土井:池田さんはなぜ美大に入ったの?
池田:小さい頃から絵を描くのが好きだった。中学生の頃から美術の授業が好きで、毎日美術の授業を受けられるところがいいと思った。土井ちゃんは?
土井:私は、美大というよりもファッションを体系的に学べる空間演出デザイン学科に入りたかった。両親が出版の仕事をしているのもあって雑誌やファッションに興味があったんだよね。入学してみて、この学科は女性の元気が有り余っていて、意志が強くて、『生きやすいなあ』と感じた。
池田:私は、空デは何をやっているかよく分からないな、と思っていた時があって。その時に武蔵美の先生から、『空デは何でも屋だから』と言われて。それがスッと腑に落ちて嬉しかったんだよね。それに手作業とかアナログなことをしたかったから空デで良かったと思っている。その中でも自由な雰囲気を感じて鈴木ゼミを選んだ。
土井「鈴木ゼミは自由に耐えられる人が集まってきているから面白いと思う。自由でいいよって言われたときに、ストレスを感じずにいられるのはすごいことだよね。私は短期間でやり方を変えられる場所にいたいと思っていて、このゼミを選んだ。去年、同時期にアパレルとIT企業の、インターンに行っていて、美大生が当たり前としている振る舞いがいかに通じないかに気づいた。だからこれからはもっと他者に伝わる表現をしていきたい。卒業後のことは決まっている?
池田:今は就職活動をしていて、すでに子どもの絵画教室の内定が決まっている。私の人生の最終目標は結婚して子育てすること。趣味というか、生活とか子育てが第一で、その息抜きとして制作活動を行っていきたい。子どもに絵や工作を教えて、美術の楽しさを伝えたい。
土井:美術の楽しさを伝える仕事はいいね。例えば美大生だと、予備校で鍛えられすぎて美大に入学したら二度とデッサンをやりたくない、と言う人がいる。そこまで言わせてしまう美大の受験とは、と疑問に思うことがあるな。
池田:そうそう、競わせる教育は嫌だから、予備校では働きたくないんだよね。今、子どもを相手にした美術の家庭教師をしていて、教え子は友だちとして接してくれる。子どもからすると私が年の離れた大人に見えるみたいで、結婚しているのかどうかを聞かれたりするんだよね。あとは家に行くと生々しい家庭環境が見えてきて、子育ては大変だな、と思ったり。
土井:人間は自己中心的だから、自分に近い年齢のほうが解像度が高いよね。私たちがこれから歳をとっていくと若い人への解像度が急に落ちて、30代も20代も10代も全員一緒になるんだろうね。
池田:あと、『先生はどこに帰るの?』と聞かれた時も面白いなって思った。もはや私が『先生』という概念になっていて、私にも両親がいて家に帰る、とは思わないんだなと思った。いきなりパッとあらわれる先生、として捉えているのかなって。今、土井ちゃんは何に興味があるの?
土井:最近はマーケティングに興味があって、コンサルティングファームで働いていきたいと考えているよ。でも就職活動がどうなるかは分からない。この学科にいると、自分で企画をして、作品を作って、場を用意して、フライヤーや名刺を作る。だから自己PRが難しい。
池田:確かにね。私は今日、webの面接があって、いろいろなんでもやりたいです、って話したけど微妙な反応をされたな。
土井:そうだよね。だから今の自由な環境は貴重だよね。