有松美汐×森田直樹
どシンプルインタビュー
森田:どうして美大入ったんですか?
有松:まず勉強が得意じゃなかった。そして、私の周りの親とか親の知人が美大出身
の人が多くてアートの関係の人に囲まれて育って、やっぱりものづくりとかが好きだなーって思って美大目指したかな。
森田:なんかどの美大生も1パーセントは必ず勉強より美術の方が得意だからって気持ちはあると思う。
有松:いや〜私、9割だと思ってる(笑)。
森田:あ、9割(笑)。
有松:まぁ大前提かな。だから言うまでもないかもしれないけど、わけの分からないもの作ってたり、絵を描いてたりする方がその人の個性が出て面白いじゃん。
森田:そうね。家族とか家庭環境が、美術関係者というか美術が好きな人たちで構成されてるのも面白いよね。
有松:うちは父がガラス作家でムサビの視デ(※1)出身なんだよね。だから、昔から岡山支部の校友会(※2)の人が集まって展示したり、宴会したり岡山県の美術の話をしたり。グラフィック系の人とか印刷業の人、それから陶芸とか染色してる人とか、たくさんの職業の人が集まって宴会をよくやるの。うちでやる時はガラス工房にでかい机を出して。
森田:おお。
有松:うちのお父さん焼き鳥焼くことが好きだから焼き鳥焼いて、みんなは料理とかお酒持ち寄って。
森田:すごいな、結構面白い環境で育ってるよね。
有松:そうだね。変な人に囲まれて育ったなぁ(笑)。
森田:割とアブノーマルな生活送ってんだなって思う。
有松:うん、そうかもしれない(笑)。ちっちゃい頃からそういもの作りの環境に触れて育ったら「アート面白ぇなっ」て。
森田:まぁ、なるよねぇ。
森田:でも、それでもアートワークや美術が好きじゃないなって思う時とかなかった?
有松:好きじゃない?ん〜、好きじゃないって思ったことはないかも。
森田:あ、ほんとに?
有松:その、なんだろう。趣味で好き嫌いとか、この作品は好きとか、そういうのはあるけど。
森田:今は美術よりも他のことやっていたいから、美術には時間取りたくない時なかった?美術よりも楽しいものが出来て離れる時期とか。
有松:美術っていうことであれば、音楽?小学校5年から一時期ベースを習ってたんだけど、音楽方面にちょっと寄った時とか。あと、中学生くらいにYoutubeにどハマりして(笑)。
森田:(笑)。
有松:今でもYoutubeとかNetflixを時間があれば見てしまうけど、そういうのくらい
かな。別に、美術が嫌だ!ってなったことはないかな。
森田:そっかそっか。
有松:逆にそういう美術が嫌になったことあるの?
森田:嫌っていうか、なんだろう。僕は幼稚園の頃から高校3年生まで地元の絵画教室に通ってたのよ。
有松:うん。
森田:中学に入ってからあんまり行かなくなっちゃって。部活が忙しかったっていう
のもあるんだけど、それよりも新しく出来た友達とその新しい価値観を知って。その新しさが楽しすぎて、絵画教室にあまり顔を出さなくなった時期が結構⻑くあったな。行ってはいたけど、適当に制作を済ましちゃって帰るのが続いちゃった。
有松:あ〜、そしたら美術に対する概念の違いが結構あるかもしれないな。
森田:というと?
有松:世の中何でも美術・デザイン・アートっていう区分で割と私は考えていて。昔から親に連れられてギャラリーとか美術館とかに行っていたり、器とかそういう普段自分が使ってる食器もお父さんの作ったやつだったりしてたから。
森田:うん。
有松:創作行為だけじゃなくて、普通に目に触れるものも全て誰かの作ったものだし、美術だって思ってるから。例えば受験デッサンの概念、合格するための絵とか
セオリーみたいな「やらなきゃいけないもの」だけが美術っていう感覚じゃなかったから。
森田:そっかそっか、そうだね。その感覚は鋭いって思った。僕の中では美術は「や
らなきゃいけないもの」だったわ。
有松:森田が美大に入ろうと思った理由は?
森田:それこそ絵画教室の影響がすごく強くて。絵画教室に通わなくなった時期があったにしても、学校の美術の授業だと他の人より凝ったものを作ったり、授業中は落書きばっかりしてた。
有松:はいはい。
森田:絵画教室外でも結局手を動かしている自分がいて。
有松:美術に進む子って、机に落書きするとかノートに逐一落書きするとか、ちっちゃい頃からそういう癖あるよね(笑)。
森田:そうそう(笑)。結局そういうのが好きなんだなって思って。でも美大目指したのが高校3年生っていう遅い時期だったんだよね。
有松:それまでは別に大学のこと考えてなかった?
森田:そうだね。なんなら受験のことを真剣に考えてなかったんだよね、僕も僕の周りも。高校3年生になって絶対に進路について考えなきゃいけない状況に立たされて
。じゃあどこの大学・専門学校受ける?ってなった時にやっぱ最初に思い浮かんだのが美術系の学校っていうだけであって。
有松:他の選択肢は別に無かったの?
森田:無かった。それこそ勉強できなかったっていうのもあるし(笑)。
有松:やっぱそうっすよね(笑)。
森田:あとそれと決して誤解しないで欲しいのが、絵画教室は足枷になってた訳じゃないってこと。ちっちゃい頃からの僕の、美術好き好き君の基盤を作ってくれたのは間違いなくあそこだったなと思う。
森田:空デを選んだ理由、ぽんさん(※3)あります?
有松:え?なんだろうね。森田は?
森田:僕は優柔不断な性格だからどれか1つ決めることよりも、周りになんでもある環境がいいと思ってたのよ。一応ファッションコースを見て考えてたけど色んなことが楽しくなちゃって、今ファッションやってないわ(笑)。
有松:結構あるよね、そういうの。なるほど、初めて森田の真面目な空デに入った理由聞いたわ。
森田:あんまり言いたくないからな、こういうの(笑)。
有松:私は実家が工芸関連っていうのもあって、手を動かしてものを作るのが好きだから、最初は工芸系に行くつもりだったんだけど受験が微妙に上手くいかなくて。1年浪人して、周りの人から空デは考え方が特徴的って聞いて、ものを作る技術は工芸系の方が手に職というか身につくんだけど、空デに入って考え方を鍛えるのもいいなって悟って(笑)。
森田:(笑)。
有松:ものを作るときになんとなく思いつきで作りがちだけど、それって結構限度があって、飽き性だから同じものつくり続けるのも面倒で、じゃあ何を主軸にして私は制作活動を続けていくんだ?って考えた時に思想を鍛えに行こうみたいな。そういうつもりで空デに入った。
森田:結構考えてるね。
有松:まぁね、1年浪人したしね(笑)。
森田:(笑)。
有松:森田の作品(※4)って、日常の疑問から生まれることが多いの?
森田:そうだね。疑問以外にも、何かに似てるとか、何かに使えそうとかそんな感じかな。突発的な思いつきから生まれるな。
有松:そんな感じする。日常の中にある発見って感じがする。
森田:そう。だからこそ、あてもなく作品を作るっていうのができなくて。テキトーに手を動かしていたら作品ができましたっていうのができない。
有松:コンセプトアート的な方が得意な感じか。
森田:そうだね。ぽんさんは?
有松:偶然の産物っていうのはよくあるかな。もともと目標があったとしても、うまくいかなかった時に別の形になったりすることがある。
森田:それはある、わかる。
有松:ティッシュのカーテン(※5)はまさにそんな感じ。もともとは
ティッシュを繋いで作った布を風船に被せて浮かせようとしてたんだけど、全然浮かなくて。それを窓際でやってたら、カーテンにしたら素敵かもって気づいてそのまま
作品にしちゃった。そういう偶然性はよくある。
森田:それは理解できる。
有松:逆にコンセプトから入るのって難しい。からくりとか仕組みを考えすぎちゃって、大枠ができない。
森田:からくりとか仕組みを考えすぎちゃうのすごくわかるな。
有松:モノ作るって難しいよね。
森田:津村さん(※6)が、頭で描いたモノをカタチにすると、その描いたモノの劣化版にしかならない的なことをおっしゃっていたのを強く覚えていて。その通りだなとしか思えなくて。
有松:なるほど、確かに。
森田:だから、風船からカーテンになったっていうのは、これを解決できそうな流れ
だよね。
有松:でもこれって意識的にできないから難しいよね。
森田:そうそう。奇跡を願うしかない。
有松:それこそ私はトライアンドエラーが足りなくて。作る量を増やすことで、奇跡の回数を増やすことができたらいいなって思ったりする。
森田:ちなみに今作ろうとしているのは、音姫(※7)。作品って言っていいのかどうかはわからんけど。こういうくだらないものは無限に思いつくけど、作品に昇華できるかどうかは難しいんだよね。
有松:YouTube のメリットとデメリットってまさにこれだよね。
森田:YouTubeにある面白い発想力って、良い昇華ができれば大作品になると思うのよ。ガチャッ茅野(様子を伺いながら教室に入ってくる)今、大丈夫?
有松・森田:うん。
茅野:あのさ、必修の履修登録ってさ…
※1 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科の略。
※2 岡山県に住んでるムサビ出身の人が集まる会。
※3 有松のあだ名。
※4 テニスボールの中に箱庭が広がる作品や、紙を使い制作したペーパードライバーすごろく等。
※5 有松の作品。
※6 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。
※7 TOTOの製品。