大学院 Master Course

近藤千夏 CHIKA KONDO

街のスキン

 

街は生き物のようです。

街の移ろいは面白いもので、小さな変化がたくさん同時多発的に起こります。例えば都心ではその速度はめまぐるしいもので、ビルの建て替え、お店のリニューアル、広告の更新、道路の舗装など街は日々更新されていきます。また、時代と共に変化していく様はまるで人が流行にのって服を纏い、化粧をすることととても似通っています。一方寂れた街ではその更新速度は遅く、そこに住む人の生活速度も反映しているように思います。

過去の街の写真と現在を比べてみるとどのように成長してきたかが一目瞭然です。大昔でなくても自分の幼少期の街の情景と今では街は沢山の変化があり、それを良いとも・悪いとも解釈する人がいます。一方で未来は想像することしか出来ません。人は老い、やがて死に、それを目撃することは可能です。街は、経年劣化しつつもどんどん更新され、将来どうなっているのかを見届けることが今の私には出来ません。

大学院での制作では『街のスキン』を通して、過去・現在・未来を面白く観ることが出来るように、制作を進めています。

 

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『都市の脱皮』剝がれ落ちた抜け殻を拾い集めるイメージで制作。

 

 

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『都市の脱皮』街は常に更新されている。街の皮膚が剝がれ落ちる様を映像化したもの。

 

 

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大学院研究発表会にて展示
大学院研究発表会にて展示

田山勇輔 YUSUKE TAYAMA

空間と線

私の研究テーマは「空間と線」です。

卒業研究では、針金を無数に繋ぎ合わせてドームを形づくり、人の入ることのできるインスタレーション作品「signal」を制作しました。

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卒業制作「signal」

 

 

 

針金という「線」が重なり合うことで、空間に溶け込む気配のような存在になります。

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「signal」に入った子供

「signal」に入った人は、包まれているのか包まれていないのかという曖昧な空間を体験することができます。

実際には、そこに実体として存在していますが、視覚的には、実体のないものが漂っているかのように見えます。

実体と、その見え方との間に生じるズレを体感できます。

今後の取り組みとして、これらの現象を恣意的な操作によって生み出すのではなく、部分には還元できない、全体として現れる現象に着目していきます。

そのために、3Dによるシミュレーションや、プログラミングによって、探っていきたいと考えています。

石垣明子 MEIKO ISHIGAKI

軌跡の研究

私は大学でプロダクトデザインやディスプレイデザインを学んだのち、大学院への進学を悩む間も無く就職の道を選びました。鈴木ゼミの存在を知ったのは就職後、暫く経ってからでした。

2年間デザイナーとして社会を経験し、学びながらも繰り返しの決まった環境で時間を流していく中で自分自身のものづくりに向かい合えているのか疑問に思うようになると同時に、脳裏に鈴木ゼミの存在が頭をかすめるようになり、後々後悔はしたくないと思い受験を決めました。

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ショーウィンドウ「幸せのお裾分け」2013年

私の研究は軌跡がテーマで、日常の軌跡をすくい上げて表現していくというものです。いろいろなものが残していく軌跡は、人の共通意識・共通認識として意識の外で自然に日常にとけこみ、見え隠れしています。

これらを採集ベースとして私しか見つけることのできない視点から、人の潜在意識を覆すことによって、新しいものの見方を与えられるものをつくります。

ハッとさせられる作品には大抵この要素がつきものであり、私にとってのデザインが持つ魅力の大部分を占めていると再認識しました。媒体や表現方法についても多種多様、試行錯誤が出来るテーマで、それを実現していけるのは空デであり鈴木ゼミでした。

着眼力と表現力を鍛え、広げていきたいと思いこの研究テーマを掲げています。

「力の奇跡」実験
「力の奇跡」実験

たとえば料理をしていて。ふと割った後の卵の殻に注目したとき、その割れ方に偶発的美しさを感じました。言うなれば卵の殻における「力の軌跡」であるその線を浮かび上がらせ採集し続けています。

みえないものをみつけていく力を鍛えるための練習のようなことをいくつか継続しながら作品づくりをしています。

「珈琲の軌跡」実験

実際に始まった大学院生生活は不思議なもので、分類化された製品を考えることを主にしてきた人間にとって広すぎる海を泳ぎはじめたような感覚があります。

自由な状況ほど道を切り開くことの大変さも改めて思い知ります。しかしそれ以上に自分自身と向き合い作品づくりできる時間は苦しい中でも充実感がついてくるので、のちに糧となる自分の芯をより強くするための2年間になっていくと思います。

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「道敷」(都市の道を抽出したコースター)

 

近藤千夏 CHIKA KONDO

わたしの三軒茶屋学

学部時代から鈴木ゼミに在籍し、その頃はマテリアルと見立てを融合した作品を制作していました。誰も目をくれないようなマテリアル(壁のシミ、地面の質感、錆等)を撮影することが好きで続けていましたが、それらは旅先の自然の豊富な場所で撮影したものが中心でした。

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見立ての茶碗
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見立ての惑星

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卒業制作「HELLO, EVERYONE!」

その中で私の地元である東京都世田谷区三軒茶屋という街を見直そうと『わたしの三軒茶屋学』というテーマを掲げて大学院では制作しています。私は2歳の頃からずっと三軒茶屋で過ごしてきました。また両親の実家も都内にあったり、もう存在しなかったりしていて、私にとって三軒茶屋という街は大切な場所でもあります。

そこで街でのフィールドワークを中心に大学院での制作が始まりました。写真で街を採集するだけでなく、実物をそのままうつしとる感覚で制作したのが『weathering stone』です。三軒茶屋はそこら中にブロック塀、下を見ればコンクリートの地面があります。そのようななかでも、気に入った面白い模様や起伏を探し採集しました。

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また“色”という観点で街を見ることにしました。自然の中のような色彩ではないですがたくさんの色が三軒茶屋には有ります。撮影した写真を色味ごとに切り取っていき、冊子にした物が『故郷の色』です。

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故郷の色
故郷の色

三軒茶屋は近年ますます開発が進み、地元の人だけでなくたくさんの人が集まるような街です。スナックや居酒屋、チェーン店、コンビニがたくさんあり、ふと周りを見回すお店の看板が目につきます。そこに着眼しつくったものが『三軒茶屋の印影』と『SIGITERIAL』です。

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三軒茶屋の印影
三軒茶屋の印影 (私の視点で撮影した看板を抽出し、はんこにしたもの)
SIGATERIAL
SIGATERIAL (ライトボックス型の看板に三軒茶屋の小さな景色をはめ込んだ作品)

大学院1年の間に故郷の街を探検する中で、今の三軒茶屋は、なんてつまらない街になってしまったのだろう、と思うことがあります。古くからあった店は閉店し、新装開店したと思ったら半年後にはまた新しい店になっています。人と街が一体となっている雰囲気は薄れ、ただ無感動無関心な人々が居るだけの街になったように感じます。

また三軒茶屋という街でマテリアルの写真を撮影してこなかったのは自分の出身地以外の場所に対する憧憬の念があったからだということも気づきました。これらを踏まえ、これからも私の故郷を様々な視点で見ていきたいと思います。

 

CHIKA KONDO http://chickaboom951.wixsite.com/chikakondo951/home

野村真佑子 MAYUKO NOMURA

トホホ感

もともと絵画学科出身で、絵や立体が自分の表現媒体でした。

学部では平面作品よりも空間をキャンバスに見立てるような立体を作り続けていました。他にも手法を問わず課題では映像を用いたインスタレーション、時には暇つぶしでスマホでコラージュを作り貯めたり。スマホを使えば電車でパっと思いついたものが、簡単に作れてしまう。

芸術足り得るかどうかはまた別の問題ですが..。

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学部3年次制作 「肉野菜炒め」 ミクストメディア/200cm×200cm×20cm(可変)
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卒業制作「コールスロー」 ミクストメディア/サイズ400cm×380cm×60cm(可変)

制作するなかで常に自分の軸として持っていたのが、「しょうもない」という感覚でした。脱力感というか、トホホ感とでも言うのでしょうか。

ぬかりなくデザインするというより、道草みたいな感覚でものを作るというか..

鈴木ゼミにはそういう空気感に対して真面目に取り組む雰囲気があるなと思ったのが

大学院でこのゼミを選んだきっかけです。

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「傘盗難防止シール」/透明シートに印刷 全6種

進学して感じていることは、大学院というアカデミックな場所で作品を作るにあたってトホホの精度をより高める必要性がある という事です。全く違ったバックグラウンドでデザインを学んできた同期の作品を近くでみていると、デザイン的な完成度の差や説得力など、学ぶことがとても多いです。そして学部と比べてどうしても学術的な勉強も増え、知識も偏ってくるので、視野が狭まらないようにという事には気を遣っています。